為末大逆転予選最下位から北京切符/陸上

- 49秒17で優勝した為末はガッツポーズ(撮影・田崎高広)
<陸上・日本選手権:男子400メートル障害>◇決勝◇2日目◇27日◇川崎市等々力陸上競技場
侍ハードラーが、地獄の底からよみがえった。男子400メートル障害の為末大(30=APF)が、3大会連続の五輪出場を決めた。五輪参加標準記録A(49秒20)を再度突破する49秒17で2年連続7度目の優勝を果たし、五輪出場権をもぎとった。3月以降、両足の故障が相次ぎ、練習状況は自己最低。決勝進出8人中、最も遅いタイムで予選を通過したが、本番で世界屈指の勝負強さを見せつけた。
無謀だったかもしれない。為末は、号砲からかっ飛ばした。世界選手権で2度の銅メダルを奪った本来のスタイルは、練習不足の現状ではリスク大。だが、修羅場をくぐった肉体は、大一番で躍動した。1度もトップを譲らず、一気にフィニッシュへなだれ込んだ。
「自分でもびっくりしているのが、率直なところ。ここまで走れるとは思わなかった」。春先に左ふくらはぎを痛め、両足の故障が続いた。5月に人生初の痛み止めの注射を打った。歩くだけの練習時に「こんなんで、五輪に行けんのか」と自問した日もあった。ハードル練習は、今月2日に再開したばかり。14日の今季初戦は51秒28で「人生で一番遅いタイムかも」とこぼしていた。
10日前の150メートルタイムトライアルは、女子のような記録だった。日本選手権は、予選落ちも覚悟した。実際に予選は50秒87に終わり「成迫くんに勝てない感触しかなかった」。すでにA標準を突破しており、代表入りのためには2位狙いでもよかった。しかし、決勝直前に、勝負師のスイッチが入った。「自分を抑えきれなくなった。リミッターを切ったとしか、言いようがない」。勝負に出た。
前夜は、一睡もできなかった。こんなの、高校生以来だった。横になって、CS放送のディスカバリーチャンネルをつけた。「ポルポト派の虐殺をみました。恨みの連鎖を見て、本当の強さって何だろうと思って…」。心拍数が高まって、眠れないまま、約12時間も布団の中にいた。
「僕が一番緊張していた。1人だけ、インターハイの時みたいな顔をしていて。でも、何かが起きるかも、という予感もありました」。そして、本当に何かを起こした。「こんなところも、精神論はすごく大事。気持ちが折れかけていたけど、メダルの夢は追い続けたい」。この記録では、上位は狙えない。ただし、競技人生の集大成と位置づける北京五輪へ、道は開けた。【佐々木一郎】
[2008年6月28日8時46分 紙面から]
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