ワンジル日本の「我慢」で五輪新V/陸上

- レース終盤、水をかぶるサムエル・ワンジル(共同)
<北京五輪:陸上>◇24日◇男子マラソン
日本育ちのケニア人、陸上男子マラソンのサムエル・ワンジル(21)が夏のレースとしては驚異的な2時間6分32秒をマーク。24年ぶりに五輪記録を更新し、金メダルを獲得した。3度目のマラソンで序盤からハイペースを維持。15歳から日本で学んだ「粘りの走り」で、五輪男子マラソン史上2番目の若さ、21歳9カ月の金メダリストになった。
異次元の速さだった。ゴールの瞬間、両手を突き上げ、大歓声を受け止めた。ワンジルは「とてもいい気持ち。3回目のマラソンで、金メダルはすごいこと。余裕? 少しあった。最後はいっぱいいっぱいだったけど」と流ちょうな日本語で話し、無邪気に笑った。
「遅いペースは苦手。速いペースがいい」。高速レースに持ち込むため、序盤から飛ばした。35キロの給水を取り損ねたが、4位だったメルガ(エチオピア)にドリンクを分けてもらった。「あれがなかったらきつかった」。直後にスパート。「僕はスプリントがないから、長いところからスパートをかけた」。計算ずくのレースをしめくくった。
昨年11月、初マラソンの福岡国際直前に1キロを3分で走る練習がストレスとなり、円形脱毛症になった。厳しいはずのメニューが「僕にとってはペースが遅すぎた」という。それほど、天性のスピードを持つ。
仙台育英時代から、日本で学んだことも生きた。「我慢。きつくても我慢です。マラソンは35キロからだから、いつも35キロからのことを考える」。夏レースで世界で初めて2時間8分を切った。たった3度目のマラソンで五輪の金メダルを獲得した。抜群の身体能力を誇るケニア人が、日本的なノウハウを覚え、21歳にして「怪物」に化けた。
恩師のトヨタ自動車九州の森下広一監督にささげる金メダルでもあった。「森下さんはバルセロナ五輪で2位だったから『サム(ワンジル)には金メダルを取ってほしい』と言っていた。それを考えて走った。森下さんに金メダルを見せたい」。マラソンを仕込んでくれた人への感謝を忘れてはいなかった。次の目標は来年9月のベルリンマラソン。「ベルリンで世界記録を破りたい。2時間3分台を出したい。次の五輪も優勝したい」。日本育ちの天才の伝説が、夏の北京から始まった。【菅家大輔】
[2008年8月25日8時43分 紙面から]
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