聴・触・嗅覚と第六感だけが頼り 暗闇レストラン
2008年8月17日
五輪に沸く北京中心部に、大人気の「珍スポット」があった。完全に真っ暗の部屋で食事をする、その名も「暗やみレストラン」。赤外線ゴーグルをつけた店員に導かれ、着席。聴覚、触覚、嗅覚(きゅうかく)、そして第六感だけを頼りになんとか料理を口に運ぶと、全意識が味覚に集中した。やみ夜で獲物を食べる“野生動物”気分。店を出た瞬間「光」のありがたみを再認識した。さまざまな食文化が広がる北京。この店、五輪選手も試合後通っている“ストレス解消店”でもあった。
フォーク落とす
北京中心部の高層ビルに、その店はあった。その名も「巨鯨肚黒暗餐庁(クジラの腹・暗やみレストラン)」。なぜ苦痛を味わってまで食事をしないといけないのかよく分からんが、急変化を続ける北京の“カオス”を象徴する「珍スポット」。暗やみだろうと何だろうとさっそく突撃した。
コース料理を注文後、まずは入り口で携帯電話、カメラ、バッグなど持ち物すべてをロッカーに預ける。東京地裁かここは。暗やみでも見える赤外線ゴーグルを装着した店員が来て「後ろから私の両肩に手を乗せて、ついてきてください」という。ちなみに、ゴーグルはロシア軍製と本格的。
仕方なく店員の両肩に手を置き、誘導されるまま、真っ暗やみの世界にリングイン。薄暗いだけかと思いきや、本当に真っ暗。自分から入店したのに思わず「聞いてないよ~」。周囲は完全に見えない。恐怖感から情けないへっぴり腰になってすり足で進むと、いすがあったので、手で触りつつ、まずはなんとか着席。
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- 客は、赤外線ゴーグルをつけた店員の誘導で暗やみの世界に入っていく
その後が大変。「道具」の確保がまだだ。テーブルの上数センチにゆっくり手をはわせ、探す。金属の感触。フォークだ。しかしフォークの先端をつかんでしまい、それに動揺し、床にチャリンと落としてしまった。
次第に慣れて…
最初の料理は、恐らく鶏肉と豆腐のあえもの。店員がくれた新フォークで食べようとしてもアゴに当たったり、うまくすくえず、床に落ちまくった。ええい、もうこの皿はやめだ。
しばらくすると、何かが置かれた音。わずかに漂ってくる熱感といいにおい。スプーンを確保し、ゆっくり熱感の中心部にさしてみる。この感触は濃厚スープだ。美味。一気に平らげた。触覚、聴覚、嗅覚をフル稼働させ食べ物を確保。あとは味覚で楽しむというパターンしかない。
2度と手放すまいと、左手にフォークとスプーンを握り締めたまま「さあ次」。音の鈍さから、大きめの皿が置かれたと推理。熱感とにおいから「ご飯系」か? やはりチャーハンだった。スプーンで、米の固まりを口の中へ何度も投入する。これもかなりの美味。
一発でキャッチ
全神経が「味覚&食うこと」のみに集中。雑念も完全に吹っ飛んだ。慣れてくると、一発で料理をキャッチできるようになった。夜行性の野生動物並みに“第六感”まで研ぎ澄まされてきた感覚だ。ふと気付くとBGMは、現況とまったく無関係な「冬のソナタ」テーマ曲。コケそうになったところで最後は、エビ料理の皿がきた。フォークを刺すと、エビの中心にぐさり。確実に上達している。
約40分後、コース終了。またも店員の両肩に手を乗せられ、入り口へ。これほど光のありがたみを感じたのは久々だ。「料理は見て楽しむもの」とよく言われるが「そんなの関係ねぇ」といった気分だ。
経営者の銭自峰さん(27)によると最近、海外の五輪水泳選手も試合後、彼女とデートに来たという。「選手は約2時間、暗やみで彼女と楽しんでいた。国名は…知らない国だったので忘れた(笑い)」。
ただ1つ気になったことがあった。「完全な暗やみだと中でヘンなことするカップルもいそうですが…」。「うちは料金が高いから、そんなヘンなお客さんは来ませんね」(銭さん)。
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- 店員は暗やみでも見える「赤外線ゴーグル」をつけ、料理を運ぶ
ストレス解消レストランは一時休業中
この店、銭自峰さんら2人がオーナー。予算は1人100~150元(約1600~約2400円)前後と北京にしてはかなり高額だが、週末は予約しないと入れないほどの人気という。五輪開会後は、外国人客が増えた。28のテーブルと、68の座席があるが、内部の構造は“企業秘密”。客は明るい場所でメニューを決め、中に入る流れだ。
銭さんが以前、スイス旅行中に同様のレストランを利用して面白いと思い06年12月、北京にオープンした。現在、国内に4店展開。「人は、まったく見えない状態の感覚を体験しておくことも重要だと考えた。会社員は人間関係がつらいが、ここは暗やみだから人間関係に悩む心配もゼロです(笑い)」(銭さん)。
ちなみに銭さんは昨夏、北京市内で「ストレス解消レストラン」も開いた。客が皿などを割りまくることができるという趣向の店だったが、現在は一時閉店。上海で営業している。



