このページの先頭




コラム


バトン落としてつかんだ強さ

2008年8月23日

男子400メートルリレー タイソン・ゲイ(26)

 つかんだはずの感触が、左手から消えた。21日の男子400メートルリレー予選。米国の第3走者パットンからのバトンを、うまく受け取れなかった。人生初、痛恨の引き継ぎ失敗。その瞬間、ゲイの北京五輪は終わりを告げた。

 思い描いた栄光とは、かけ離れた現実だった。100メートルでは、準決勝でまさかの敗退。世界新で勝ったボルト(ジャマイカ)の引き立て役にもなれなかった。雪辱をかけて挑んだ、今大会最後の出場種目。しかし、逃したツキは簡単には戻ってこなかった。

 成功は人を変える。07年の世界選手権(大阪)では100メートル、200メートル、400メートルリレーの3冠を達成した。世界最高のスプリンターは、ここで有頂天になった。練習場でも携帯電話を離さず、好きなジャンクフードをむさぼった。そんなとき、ドラモンド・コーチからカミナリを落とされた。「お前はまだ、何も勝ち取ってない。偉大だと言えることは1つもやっていないだろう」。目が覚める一言だった。だが、気付くのが少し遅かった。

 坂道を転げ落ちた今、愛娘トリニティちゃん(7)のけなげな言葉が心に染みる。「もっと私もテレビに出たいよ」。07年の全米選手権の200メートルを制した自分と、一瞬だけ映った2ショットを、娘は覚えていた。勝ってテレビに映る父を、間近で見たかったのだという。

 レースは無冠に終わった。だが、手ぶらで帰るわけではない。「おそらくは自分のミスだろう。批判なら受ける」。重圧を背負う強さ、逆風に向かう勇気を、今のゲイは持っている。成功と同じように、失敗も人を変えることができる。

タイソン・ゲイ 

 1982年8月9日、米ケンタッキー州生まれ。姉の影響で陸上を始め、少年時代にはアメフトなどさまざまなスポーツと兼業。今年6月の全米選手権では、追い風参考ながら100メートル9秒68で優勝した。183センチ、73キロ。




ここからフッターエリア


nikkansports.comに掲載の記事・写真・カット等の転載を禁じます。
すべての著作権は日刊スポーツ新聞社に帰属します。
(C)2018,Nikkan Sports News.