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コラム


常識破りの連覇なんです

2008年8月12日

 平泳ぎは「最も難しい泳ぎ」といわれる。腕や足のパワーが増せば、抵抗も大きくなる。強く手をかき、キックをするとスピードが落ちるという「不条理」な競技。「頑張れば頑張るほど遅くなる種目」と言うのは、日刊スポーツで解説する長崎宏子さんだ。バランスが独特で、1度崩したフォームを戻すのも難しい。選手寿命も他の泳法に比べて短い。長くトップレベルを保つのも至難だ。北島の連覇は、競泳界の常識を打ち破った快挙といえる。

 過去、五輪男子平泳ぎの金メダリストは100、200合わせて22人いるが、連覇は鶴田義行だけ。連続でメダルを取った選手も北島を含めて3人しかいない。鶴田も2度目は若手の指導役としての出場で、本当に狙っての連覇は北島が初ともいえる。連覇を狙うことですら、すごいことだ。

 だいたい、両手と両足を同じように動かすこと自体が人間の体の仕組みからいっても無理な行為だ。走るのも、投げるのも、左右の動きは非対称。普段の生活でも、左右の手足を同じように動かすことは珍しい。五輪全競技の中でも、こんなむちゃな種目は平泳ぎ(と平泳ぎから分かれたバタフライ)ぐらいだろう。

 この日、北島の首にメダルをかけたのは、IOC委員の岡野俊一郎氏。元日本サッカー協会会長だが、かつては競泳選手だった。サッカーに転向する時、両親から「どうして使える手があるのに、足しか使わないの」と怒られたと苦笑いするが、同じように動きに無理やり制限を加えながら争うのが平泳ぎなのだ。

 窮屈な種目だからこそ、速く泳ぐために工夫が必要になる。鶴田は五輪直前、たばこで管理人を懐柔して使用禁止の本番プールで練習したという。古川勝の潜水泳法や田口信教の田口キック、独特の大きなストロークで世界ランク1位になったのは、この日解説者として絶叫していた高橋繁浩だった。世界の常識を打ち破った北島もまた、日本の伝統を守って力と技と頭で金メダルを獲得した。

荻島弘一(おぎしま・ひろかず)

 1960年(昭和35年)東京都生まれ。84年に入社、スポーツ部勤務。五輪、サッカーなどを担当し、96年からデスク。出版社を経て05年から編集委員として現場取材に戻る。




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