3歳から16年で鍛え作られた理想のボディー
卓球愛ボーグ【卓球・福原愛】
卓球の北京五輪代表の福原愛(19=ANA)は、全身にさまざまな武器を備えていた。イチロー並みの動体視力を持つ目、末続慎吾と同じ足、そして清原に匹敵する不屈のハート…。156センチ、50キロ足らずの体には世界トップレベルの能力が凝縮されている。北京五輪で日本卓球史上初のメダル獲得を目指す小さなエースの驚異の肉体を、近い関係者や専門家の証言をもとに徹底検証した。【構成・高田文太】
世界トップ級 動体視力
目 動体視力は卓球女子では世界トップクラスといわれる。2月に福原の特別コーチに就任した鄭慧萍(日本名・高林慧)コーチは「専門家の方に『動体視力はマリナーズのイチロー並み』と言われたことがある」と明かす。視力は左右とも1・2。乱視のため昨年12月にメガネを購入したが、競技への影響はない。
卓球は初速が130~140キロで、速い選手のスマッシュは150キロにも達する。相手が打ってから約0・5秒後には打ち返さなければならない。加えて球の回転に合わせた打ち方をしなければならない。球の回転は秒速130~140回。球に描かれたメーカーのロゴで見極めるという。
日本卓球協会の広報は「五輪に出場する全選手のデータでも、動体視力上位を卓球選手が占めていることが多い」と話す。その中でも福原はトップクラス。彼女の動体視力は天性のものらしい。母千代さんが言う。「1歳ちょっとの時には文字が読めるようになって、車に乗るといつも通り過ぎていく看板を読んでいた」。3歳で卓球を始める前から「才能」を発揮していた。それが猛練習でさらに研ぎ澄まされた。
故障が少ない 偏平足
足の裏 靴のサイズは24センチ。一見すると扁平(へんぺい)足のように土踏まずがない。これは足底筋と呼ばれる足の裏の筋肉が極端に発達したため。福原専用シューズ作製に携わるミズノ技術開発部フットウエア課の荒木研史主事は「中国代表のシューズもつくっていますが、こんな足をした選手は見たことがない。衝撃を吸収するクッションの役割がある」。卓球は踏み込んだ時に体重の3~4倍の重量が足にかかる。この足底筋が故障の少ない要因だと指摘する。
生まれた時は一般的な足の裏をしていた。だが「小学4年生の時に特注のシューズをつくるために測定したところ、このような足になっていることを初めて知った」と母千代さんは振り返る。実は陸上短距離の末続慎吾、同ハンマー投げの室伏広治が、同様の足の裏をしている。
スポーツ医学を専門とする平石クリニックの平石貴久院長は「今は足底筋がスポーツ界で注目されている。ゴーアンドストップの効果を高め、敏しょう性が増すともいわれている」と説明する。それでも足底筋を意図的に鍛えることはほぼ不可能だという。平日は毎日4時間、週末は1日8時間という幼少からの猛練習で、自然と培った産物だ。
逆球にも対応 柔らか肩
背中 肩甲骨と肋骨(ろっこつ)の間に、指がグリグリと入っていく特性がある。肩甲胸隔(けんこうきょうかく)関節と呼ばれるが実際には関節ではない。この部分が柔らかい選手ほど、肩の可動域が広いと言われる。卓球日本代表のトレーナーを務める米沢和洋氏は「肩甲骨の自由度が高いということ。これは非常に大事なこと」と力説する。肩が柔らかいので、腕の可動域も広くなる。逆をつかれた際などの難しい球への対応も可能になる。
主流”中国語 ペラペラ
口と耳 女子の世界ランク上位は中国出身選手がズラリと並んでいる。国籍を変更している選手も多い。だから国際大会で飛び交う言葉は中国語ばかり。そんな中で福原は流ちょうな中国語で積極的に会話に加わる。試合では相手側の指示を瞬時に理解できる。
5歳の時にテレビ番組の収録で初めて中国を訪れた。その後も定期的に足を運んだ。小学5年生から強豪遼寧省のチームで、多い年は計2~3カ月も練習した。「中国人コーチに練習中は中国語しか使わないようにしてもらった」(母千代さん)。語学でも英才教育を施した。中国での人気も高く、5月には胡錦濤国家主席と、卓球交流もした。今の福原にとって北京は決してアウェーではない。
「負けん気」は清原級
ハート 野球、サッカーなど多くのプロ選手を診た平石医師は「負けん気の強さ、ハングリー精神は清原(オリックス)に匹敵」と話す。幼稚園時代は格上でも、形勢不利になると泣きだした。今も敗戦後は口数が少ない。
幼少のころ、大会1カ月前から自宅の卓球台で母を相手に毎日1000本ラリーを続けた。1本でもミスすると1からやり直し。夜が更けてからミスした。母が大目に見ようとすると、福原はそれを断ったという。4歳から福原を知る鄭コーチは「卓球は一瞬の勝負。最後は結局、思い切ってプレーできる方が強い。彼女は小さい時から人一倍、経験が豊富。ピンチでも動じることがない」。度胸のよさも大きな武器だ。
本場で絶賛のスナップ
手首 武器の強烈なバックハンドスマッシュは、柔軟な手首が原動力になっている。母千代さんは「手首が柔らかくて、小さい時から中国に行くたびにほめられたのが手首の感覚」と証言する。柔らかいのでスナップが利く。千代さんと毎日1000本続くまでラリーを続けた練習で身に付けた。日本女子代表の近藤欽司監督は「野球に例えると軟投派投手」と話す。福原が使うラケットは160~170グラムほどで、約150グラムの野球の硬球と同程度の重量。スマッシュを放つフォームは、投手の投球動作とも重なる。どちらも手首のスナップが生命線だ。
- 北京五輪での福原のライバル
- メダルに近い団体戦は、中国が圧倒的な金メダル候補で、続くシンガポール、韓国、香港とは互角の実力を備えている。事実上、銀、銅と2つのメダルを4カ国で争う展開。シングルスでは上位陣に互角以上の戦いを見せることもあるが、現世界ランク1位の張怡寧、同4位の王楠という中国代表2人には、1度も勝ったことがない。ほかアテネ五輪シングルス銅メダリストで、カット主戦型の金■娥(韓国)にも過去未勝利。苦手意識を取り除くことがメダルへの近道といえる。
■=日へんに景
- 福原愛(ふくはら・あい)
- 1988年(昭63)11月1日、仙台市生まれ。3歳9カ月で卓球を始める。4歳時の93年に全日本選手権女子バンビの部(8歳以下)で16強入りし、注目される。翌94年に5歳で同部初優勝。小学4年時の99年に10歳4カ月でプロ活動を開始。00年、11歳7カ月で日本代表入り。01年の全日本選手権では13歳1カ月で8強入り。03年に14歳6カ月で世界選手権出場と、すべて史上最年少で達成。04年アテネ五輪女子シングルス16強。世界ランク最高位は9位。156センチ、46キロ。



