右手1本で1回転!!体操ニッポン連覇への切り札
360度回る鹿島の手首【体操・鹿島丈博】
体操ニッポンの切り札は「汗と涙のメリーゴーラウンド」-。アテネ五輪男子団体総合の金メダリストで、あん馬のスペシャリスト鹿島丈博(27=セントラルスポーツ)が、世界屈指の大技を引っさげて北京に乗り込む。右手だけで体を支えて360度回転するE難度の旋回技「メリーゴーラウンド」(MGR)で、アテネ五輪後から演技構成に取り入れた。昨年8月に練習中に失敗して、引退も考える重傷を負った。危険と隣り合わせの“もろ刃の剣”で、団体連覇と種目別金メダルへの道を切り開く。
スペシャリスト
また下86センチを誇る鹿島の両足が、あん馬の上にスローモーションで円を描く。白馬が躍る遊園地のアトラクションのように優雅で、時計の針のように正確に回転する。MGRは開脚旋回から始まるダイナミックな演技構成で異彩を放つ。
右手でポメル(取っ手の部分)をつかんだまま、一直線に伸ばした体を水平に360度回転させる。見た目はシンプルだが、難度はE。F難度の技がないあん馬では最高ランク。昨年の世界選手権の種目別で披露したのは06年銅メダルのアルテメフ(米国)1人だけ。世界王者の肖欽(中国)ら、トップ選手がそろって“敬遠”した。
鹿島 片手だけで(体を)支えるから、落下するリスクが高い。だからみんなやらないのかな。
全体重59キロと遠心力のすべてを、右手1本で支える。致命的な失敗となる落下だけでなく、回転不足による減点の危険もある。日本協会の遠藤幸一常務理事は「手首が360度回るぐらい、関節が柔らかくないとできない」と指摘する。だが、鹿島には自信がある。
鹿島 安定性が出てきたから(リスクなく)武器として使える。あん馬は技の数が少ないのでE難度がとれるのは大きい。(他の選手にない)特殊な技をやるのも(狙いの)1つ。
背景には3歳で体操を始め1日1000回にも及ぶ旋回練習をこなして身につけた、安定性と柔軟性がある。さらにMGRは05年から演技構成に入れて約3年も熟成を重ねてきた。
“引退危機”に追い込まれた因縁の技でもある。昨年8月の世界選手権直前、ドイツでの練習中にMGRから次の技へ移行しようとして、左手を器具の金属部分に強打した。甲を骨折して緊急帰国。手術を余儀なくされ、2週間以上も入院した。06年の左肩手術からようやく復調してきたときだった。ベッドの上で、脳裏に「引退」の2文字がよぎったこともあったという。懸命のリハビリを乗り越えて、今年5月のNHK杯で北京切符をつかんだ。けがの恐怖にも負けず、MGRも完ぺきに決めた。
NHK杯で成功
団体総合連覇を狙う日本にとって、あん馬はつり輪と並ぶ弱点種目。具志堅幸司監督も「あん馬は全体的に中国の方が上だが、鹿島は日本の強み」と信頼する。03年世界選手権の種目別王者だけに、あん馬で日本初の金メダルもかかる。「気持ちは金メダルを目指してやるけど、まずは自分の最高の演技を」。苦い記憶と、スペシャリストとしての誇りが詰まった大技をたずさえ、再び世界の頂点へ向かう。【太田尚樹】
極限の構成
鹿島の演技構成は「極限」の内容だ。本人も「これ以上入れるものがないくらい」と胸を張る。MGRのほかにもう1つ、アテネ五輪後に増やした技が同じE難度の「ウ・グォニアン」。うつぶせで2回転しながら、あん馬の端から端へと移動する。
昨年の世界選手権を制した肖欽のA得点6・6に対し、NHK杯の鹿島は6・5。0・1点差を埋めるため、現在は最後の挑戦に取り組んでいる。難度Dの「マジャール移動」を同Eの「ドリッグス移動」に変更して、肖欽に追いつくプランだ。ともにあん馬の端から端へ移動する技だが、前者が4回手をつくのに対し、後者はひとまたぎ。14日の試技会では見事に成功させるなど、徐々に手応えをつかんできている。
| 順番 | 内容 | 難度 |
|---|---|---|
| 1 | トーマスシュピンデル(縦向き旋回1回ひねり) | D |
| 2 | マジャール移動(縦向き前移動) | D |
| 3 | Eコンバイン(E難度の連続技) | E |
| 4 | ウ・グォニアン(下向き720度転向移動) | E |
| 5 | シバド移動(縦向き後ろ移動) | D |
| 6 | 縦向き前移動4分の1ひねり→縦向き後ろ移動4分の1ひねり | B |
| 7 | ショーン(一腕上上向き転向)=「メリーゴーラウンド」 | E |
| 8 | 正交差ひねり逆交差入れ | B |
| 9 | Eフロップ(E難度の連続技) | E |
| 10 | 下向き逆移動倒立3部分移動下り | D |
※4番ウ・グォニアン、7番ショーン=「メリーゴーラウンド」はアテネ五輪後に新たに採り入れた技
- 鹿島のライバル
- 最大の敵は地元中国の肖欽。力強い足さばきを武器に、05~07年の世界選手権3連覇中。07年世界選手権銀メダルのベルキ(ハンガリー)同銅メダルのスミス(英国)も強敵。06年同銀メダルで今季のドーハ国際を制した21歳のセラトライ(オーストラリア)ら若手も台頭してきている。
| 順位 | 選手名 | 国名 | 合計点 | A得点 | B得点 | 難易度別の技数 A B C D E |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 肖欽 | 中国 | 16.300 | 6.6 | 9.700 | 0 2 0 6 3 |
| 2 | K・ベルキ | ハンガリー | 15.700 | 6.3 | 9.400 | 0 1 1 5 3 |
| 3 | L・スミス | 英国 | 15.600 | 6.5 | 9.100 | 0 2 0 4 4 |
| - | 鹿島丈博 | 日本 | 15.950 | 6.5 | 9.450 | 0 2 0 4 4 |
【注】鹿島は不出場のため、得点はNHK杯初日のもの
- 体操の採点法
- 06年から10点を満点とする従来の方式が廃止され、技の難度など構成内容を評価するA得点と、技の出来栄えを評価するB得点(10点満点)の合計で争われることになった。難度の高い技を数多く入れてA得点を稼ぐ中国などに対し、日本は「美しい体操」の伝統からB得点を重視する傾向が強い。
- 鹿島丈博(かしま・たけひろ)
- 1980年(昭55)7月16日、大阪市生まれ。3歳で体操を始める。あん馬で頭角を現し、95年に史上最年少の15歳で全日本選手権制覇。世界選手権では02、05年に銅メダル、03年には日本初の金メダルを獲得。04年アテネ五輪では銅メダルに終わったが、日本の団体総合制覇に貢献。06年5月に結婚。168センチ、59キロ。



