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五輪開幕前連載「メダル候補たちの武器」

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両腕30センチ広げ推進力チョ~UP

完成目前最強の水かき【競泳・北島康介】

 2大会連続2冠は「両腕」でつかむ。4月20日に閉幕しした競泳日本選手権の男子200メートル平泳ぎで、北島康介(25=日本コカ・コーラ)が、自己の持つ日本記録を一気に0秒58更新した。距離にして約40センチ。進化の秘密は「手びれ」と化した両腕にあった。アテネ五輪のときの約1・5倍の水をつかみ、推進力に変えていた。

北島の新旧日本記録ストローク比較
北島の新旧日本記録ストローク比較
03年7月 世界選手権の肩幅
08年7月 日本選手権の肩幅
200m平泳ぎシーズンベストの変遷
年 タイム 大会
2000 2分13秒47 日本選手権
2001 2分11秒21 世界選手権(日本新)
2002 2分9秒97 アジア大会(世界新)
2003 2分9秒42 世界選手権(世界新)
2004 2分9秒44 アテネ五輪
2005 2分13秒26 日本選手権
2006 2分10秒87 パンパシ
2007 2分9秒80 世界選手権
2008 2分8秒84 日本選手権(日本新)

肩幅60センチから

 日本新記録は必然だった。19日の日本選手権男子200メートル平泳ぎ決勝。北島の泳ぎを分析すると大胆な変化が明らかになった。50メートルのストローク数は15、15、15、19の合計64回。それまでの日本記録で、当時の世界記録だった2003年世界選手権決勝の70回より6回も少なかった。平泳ぎは足を引きつける際に、水の抵抗を受けて推進力が一瞬だけ止まる。1ストロークにつき約0・1秒ロスするといわれる。6回少なくなった分だけ、1回の推進力が増し、タイムが伸びた。

 その原動力が進化した両腕だった。平泳ぎの上半身の動作で、両手を胸の方にかき込んだ瞬間が、最も加速できる。これまでは両手を伸ばした状態から、ちょうど肩幅にあたる幅60センチ分ほどの水をかき込んでいた。それが上半身を集中強化したことで、現在は「幅が横に1・5倍広がった」(平井コーチ)。90センチ分もある水を豪快にキャッチして、推進力に変えることが可能になった。

 10年前から北島の泳ぎを分析・研究し、サポートしている日体大助教授の岩原文彦氏が明かす。「以前は(手足が)伸びている時間が長かった。今は絶えず動いている。それでもストローク数が減ったのは、1回のストロークでそれだけ進んでいるということ」。単純計算で従来は3回のストロークでかいていた水の量を、2回でとらえることができるようになった。推進力も1・5倍になったというわけだ。

7年かけて

 試行錯誤の末、完成まで7年を要した。平泳ぎは手のかき(プル)が大きいほど水流が不安定になり、キックの際の水をとらえる動きを邪魔するといわれる。キックを取るか、手のかきを取るか…。「二兎(にと)追う物は一兎も得ず」が従来の一般的な考えだった。世界記録保持者のハンセンはプルを得意とする。北島はキックが持ち味。北島を小学生時代から指導する平井コーチは「(世界記録を出した)03年世界選手権は持ち味のキックを、プルで邪魔しない泳ぎだった」と振り返る。

 実は北島は01年の秋からプルの強化に着手していた。国立スポーツ科学センターの田村尚之トレーナーが当時を回想する。「もともと彼は足全体の筋力が強く、何よりも筋肉の使い方が上手だった。垂直跳びをさせると、水泳選手では珍しく、バレーボールや陸上の走り高跳びの選手と同じようなバネを使った跳び方をした。それに比べて上半身は普通かそれ以下というレベルだった」。しかし、アテネ五輪には間に合わなかった。ひじやひざを故障したため、長所のキックを最大限に生かす泳ぎで臨んだ。

4輪駆動へ

 アテネ五輪後、十分に休養を取った上で、上半身の筋力トレーニングを再開した。強く手をかくために必要な腕力、背筋力などを徹底して強化した。今回は故障もなく順調だった。一方で水上に上がる泡の立ち方に気を使うほど、水流の乱れを最小限に抑えるプルを身につけた。そしてキック主体の後輪駆動の泳ぎから、プルも使った四輪駆動の泳ぎへと進化した。「去年ぐらいから、だんだんよくなったのが分かった。今シーズンが始まったときから違和感も少なかった。今さらながら平泳ぎの深さ、魅力を感じる」と北島も手応えを感じている。

 もっとも日本選手権の泳ぎは完成形ではない。平井コーチが分析する。「50メートルのところは無理に(ストロークを)合わせていたし、150メートルのところも変な感じだった。最後もそのまま伸びていった方がいいかもしれない。五輪では最後の一かき、タッチの差になるはず。その中で1ストローク多いのは危険」。50㍍ごとにさらに1ストローク以上減らすことも視野に入れる。合計60回以下の理想のストロークが実現すれば、今回の2分8秒84をさらに0秒4以上縮めることができる。ハンセンの持つ世界記録2分8秒50も上回る。

7秒台狙え

 平井コーチは「2分7秒台を狙いたい」と自信をのぞかせる。北京五輪で「理想の泳ぎ」が実践できれば、北島は2大会連続2冠という偉業を、世界記録で達成することができる。【高田文太】

グラフ
北島の平泳ぎの速度変動
アテネ五輪では、一般的な選手よりも強いキック力で、スピードと1ストロークの進行距離を伸ばしていた。だがその後のプルによる加速の割合は、一般的な選手と同程度。現在は、プルでも一般的な選手を大幅に上回る加速力を得て、1ストロークの距離を大きく伸ばした。その結果、伸びの姿勢を長く保たなくても、自然とトータルのストローク数が減った。
北島康介(きたじま・こうすけ)
 1982年(昭和57年)9月22日、東京生まれ。5歳で水泳を始め、中3で全国中学大会の平泳ぎ100、200メートルを制覇。00年シドニー五輪100メートル4位。03年世界選手権100、200メートルを世界記録で2冠。177センチ、78キロ。

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