腕の「縦」+腰の「横」2つの回転で目指す前人未踏の120キロ
世界ひねる!!上野金獲ルネード【ソフトボール・上野由岐子】
ソフトボール日本代表が「世界一の剛腕」を最大の武器に、北京五輪金メダルを目指す。エース上野由岐子(25=ルネサス高崎)は、世界最速119キロの剛速球を投げ込む。「腕の縦回転」と「腰の横回転」から生まれるスピードボールは、190センチを超える強豪国の大型投手もまねできない。北京を最後に正式種目から外れるソフトボールの最強投手が「縦横の回転」を軸に世界の頂点に上り詰める。
金属バットを真っ二つ
「三振が欲しい時に確実に取れる投手になりたい」。上野が普段から口にする言葉だ。MAX119キロの剛速球は、とにかく速い。マウンドが5メートル近いとはいえ、体感速度は野球の167キロといわれる。06年8月の世界選手権では相手打者の持つ金属バットを真っ二つにへし折った。強豪国の190センチを超える大型投手より10キロ近くも速い。173センチ、71キロの体から、なぜ世界最速ボールが投げられるのか。秘密は野茂英雄のトルネード投法ばりの「縦横の2つの回転」にあった。

1 腕の縦回転
日本ソフトボール協会の情報分析担当で、腕を風車のように回すウインドミル投法のメカニズムを研究する福島豊司氏(37)は「上野投手とほかの投手を比べた時に最も違うのが腕振りのスピード。投球時に腕を1回転させますが、特にボールをリリースする直前の残り4分の1周の回転速度が驚くほど速い。世界屈指と言えます」と説明する。
実はこの回転速度は特別なトレーニングで身につけたわけではない。投手になった小5のころにすでに85キロの速球を投げていたという。国体で優勝した九州女高時代もスピードは際立っていた。「残り4分の1周の速さは筋トレや投げ込みだけで身につけられるものではない。それができれば世界中に上野のような投手が何人も誕生するはずですから。腕振りの速度は天性のものでしょう」(福島氏)。骨格や筋肉バランス、下半身の強さなど、生まれ持った要素が世界屈指の回転速度を支えている。
2 腰の横回転
上野の投球フォームは、他の投手よりも腰の横回転を有効に使っているという。日本に初めてウインドミル投法を導入した投手で、国際連盟の殿堂入りも果たしている三宅豊氏(56)は「上野の投球は腕の回転に加え、腰の回転をうまく使っている」と分析する。ウインドミル投法は、腕の縦回転と腰の横回転で構成される。上野は投球時に他の投手より胸が三塁方向を向く角度が深く、時間も長い。「これまでの経験からいきついたフォームなんでしょう。とても効率よく力が生み出される」(三宅氏)。
正式種目で最後の五輪
「腕の縦回転」+「腰の横回転」。上野が他の投手よりも秀でているのは、この2つの回転から生じた力を、投げる瞬間に指先からボールに伝える能力だ。三宅氏が言う。「投球時に生み出された力をボールに乗せるのが抜群にうまい」。それが世界最速ボールを生み出している。
ソフトボールが正式採用された96年アトランタ五輪から数えること4大会目の北京五輪は「最後の五輪」でもある。今年2月に上野は「120キロをマークしたい」と話した。金メダルの鍵はその右腕に託されている。【菅家大輔】
| 年 | 大会 | 開催地 | 勝敗 | 奪三振 | 防御率 | チーム 成績 |
寸評 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2002 | 世界選手権 | サスカツーン | 4勝0敗 | 24 | 0.31 | 2位 | 決勝トーナメント中国戦で完全試合 |
| 2004 | 五輪 | アテネ | 3勝2敗 | 31 | 0.46 | 3位 | 予選リーグ中国戦で完全試合 |
| 2006 | 世界選手権 | 北京 | 5勝1敗 | 55 | 0.48 | 2位 | 9戦中6戦で先発の大活躍 |
ストレートをいかに生かすか
上野はストレートの生かし方を北京五輪の最大のテーマに掲げている。「私の持ち味は他の人には投げられないストレート。カウントも稼げるし、勝負もできる。それを投球にうまく出していきたい」。昨年までの2年間は制球に重きを置いた投球を追求してきたが、五輪イヤーに入ってからは「本来のストレートを追い求めていく」スタイルに戻した。スピードだけでは強豪米国などの打線を抑えられないだけに「勢いのあるボールをいかにコントロールできるか」に課題を置いている。今季の日本リーグでも1試合ごとにテーマを設定。代表でも女房役を務める同僚の乾捕手と話し合い、ストレートを生かすための変化球の使い方や、2ストライクに追い込むまでの配球などを徹底的にチェックしている。
- ライバル国の投手事情
- 日本が最も苦手とするのが、五輪4連覇を目指す米国のエース左腕オスターマン。上野ほどの球速はないが、190センチを超す長身から繰り出されるライズボールは世界屈指。また米国はオスターマンを超す長身左腕アボット、ベテラン右腕フィンチもそろえる投手王国。カナダも左右2枚ずつの投手を並べ、3月のオーストラリアでの国際大会では日本打線を封じ3勝2敗で勝ち越している。またオーストラリアはベテラン右腕ハーディングが中心となりまとまっている。
- 上野由岐子(うえの・ゆきこ)
- 1982年(昭57)7月22日、福岡市生まれ。右投げ右打ちの投手。小3でソフトボールを始め、柏原中で全国制覇。九州女子高2年の99年に世界ジュニア選手権優勝。01年にルネサス高崎入社。同年に日本リーグ新人王に輝くなど、これまでにリーグMVPなど数々の賞を獲得。日本代表のエースとして04年アテネ五輪銅メダル、06年世界選手権銀メダルを獲得。目標とするアスリートは中田英寿氏、ロナウジーニョら。173センチ、71キロ。



