40メートルを3秒75=時速38.4キロでつなげ!!
世界最速のバトンパス【陸上男子400メートルリレー】
世界ランク4位の陸上男子400メートルリレー日本代表が、「世界一速いバトンパス」でメダル取りを狙う。07年世界選手権は5位だったが、第3走者の高平からアンカー朝原へバトンが渡った時のテークオーバーゾーン(TOZ)20メートルの区間は世界最速だった。今季からは、TOZとその前後10メートルずつの合計40メートルのタイム短縮に着目。この区間を3秒75で駆け抜けることを目標に、快挙への挑戦を始めている。
ランク4位
日本選手権の100メートル決勝後、朝原は個人種目の抱負に続いてこう言った。「リレーで去年、いいところまで行ったんで、メダルを取りたい」。同大会100メートル3連覇の塚原は「リレーは(周囲から)メダル、メダルと言われるが、僕もそう思っている。僕が口火を切って、いい流れをつくりたい」ときっぱり言った。
日本陸連が北京五輪の目標に掲げたのは、メダル2、入賞5。高野強化委員長は女子マラソンと男子ハンマー投げをメダル候補に挙げ、男子400メートルリレーは入賞候補の一角とした。しかし、選手たちは、もうその気になっている。00年シドニー五輪以降の世界大会での順位は、6、5、7、4、8、5。上位2レースの平均タイムで決まる北京五輪出場のための世界ランクは現在4位。あと1歩で表彰台に立てる実力を備えている。
世陸で証明
「バトンパスでタイムを稼ぐ」という日本の方向性は、間違っていない。07年世界陸上大阪大会は、38秒03のアジア記録をマーク。レースのレベルが高く順位は5位だったが、バトンパスは世界トップレベルだった。
TOZのタイムは1走塚原→2走末続は上位5カ国中4位だったが、末続→3走高平は2位、高平→アンカー朝原は1秒91で世界最速だった。米国やジャマイカには9秒台の選手が複数いることを考えると、これは驚異的だ。この時、高平はバトンを1発で朝原の手に入れられず、わずかにタイムロス。「あれが1発で収まれば、もっと(タイムを)短縮できる」(高平)と意気込んでいる。
ミスに笑顔
チームとしてさらに速いタイムを出すための、新たな取り組みも始めている。TOZ20メートルと、その前後10メートルを加えた40メートルのスピードアップだ。目標タイムは3秒75。400メートルの目標タイムでもある37秒台のほぼ10分の1。つまりバトンパスも、ほとんど減速しない。100メートルで9秒375、時速38・4キロに相当する。
この記録を出すには、スムーズなパスはもちろん、受けた側が加速してTOZを飛び出す必要がある。これができれば自動的に、個人の疾走時間も縮められる。3月の陸連合宿では一部選手間で達成したケースがあったという。
日本選手権が終わり、いよいよ五輪に向けた強化が本格化する。陸連の短距離合宿でもリレーの練習が盛り込まれる。日本陸連の苅部短距離部長は「大阪で結果を出したので、これを継承し、さらに磨いていきます」と話す。ここまでバトンにこだわって強化する国はおそらく、ほかにない。07年世界陸上大阪大会前、米国チームは練習中にパスをミスしても、笑ってすませていたという目撃談がある。圧倒的な個人の力がある国は、バトンを重視しない。日本もまずは個人の走力を上げることが大前提になるが、個人で劣勢だからこそ、バトンで負けられない。そこに、つけいるすきがあり、日本の生きる道がある。【佐々木一郎】
米&ジャマイカは個人主義 手本にすべきは英スタイル
| 米国 | ジャマイカ | 日本 | |
|---|---|---|---|
| 1走 | パットン (10秒00) |
アンダーソン (10秒15) |
塚原 (10秒15) |
| 2走 | スピアモン (9秒96) |
ボルト (9秒72) |
末続 (10秒03) |
| 3走 | ゲイ (9秒77) |
カーター (10秒08) |
高平 (10秒29) |
| 4走 | ディクソン (10秒07) |
パウエル (9秒74) |
朝原 (10秒02) |
| 計 | 39秒80 | 39秒69 | 40秒49 |
- 07年世界選手権の分析
- 上位5カ国のデータを分析したこの表から、各国の特性がよく分かる。米国とジャマイカは、個人の疾走時間が上位1、2位だが、バトンに要した時間はワースト1、2位。つまり、パスワークよりも個人任せのスタイルだ。日本は個人の疾走時間はワーストだが、バトンは上位と微差の3位。特に3走の高平から4走の朝原へのパスは、世界最速だった。日本が手本とすべきは、英国のスタイルだ。個人の疾走時間は、日本より0秒04、バトンは0秒09いい。手が届きそうな小差を埋められていれば、メダルが手に入っていた。

順大スポーツ健康科学部・柳谷登志雄准教授(35)の見解
日本は走力の割に、TOZのタイムが速いといえます。TOZに入ってスピードが落ちないこと、加速がスムーズにいくこと、パスの動きに無駄のないことが重要です。渡す人ももらう人も手を伸ばして走ると、失速します。アンダーハンドパスは手を出す時間が、お互い最少になりますから、ロスが少なくなります。
タイムを短縮するためには、バトンの完成度をさらに上げることと、個々の走力を上げること。37秒台を出してほしいという望みを込めて、ポテンシャルはあると思っています。大阪ではものすごく盛り上がって応援してくれました。その雰囲気と、北京は違うことも注意しなければいけません。
| 年 | 大会 | 開催地 | 日本の成績 | 金 | 銀 | 銅 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 記録 | 順位 | 選手名 | ||||||
| 2000 | 五輪 | シドニー | 38秒66 | 6 | 川畑、伊東、末続、朝原 | 米国 37秒61 |
ブラジル 37秒90 |
キューバ 38秒04 |
| 2001 | 世界陸上 | エドモントン | 38秒96 | 5 | 松田、末続、藤本、朝原 | 米国 37秒96 |
南アフリカ 38秒47 |
トリニダード 38秒58 |
| 2003 | 世界陸上 | パリ | 39秒05 | 7 | 土江、宮崎、松田、朝原 | 米国 38秒06 |
英国 38秒08 |
ブラジル 38秒26 |
| 2004 | 五輪 | アテネ | 38秒49 | 4 | 土江、末続、高平、朝原 | 英国 38秒07 |
米国 38秒08 |
ナイジェリア 38秒23 |
| 2005 | 世界陸上 | ヘルシンキ | 38秒77 | 8 | 末続、高平、吉野、朝原 | フランス 38秒08 |
トリニダード 38秒10 |
英国 38秒27 |
| 2007 | 世界陸上 | 大阪 | 38秒03 | 5 | 塚原、末続、高平、朝原 | 米国 37秒78 |
ジャマイカ 37秒89 |
英国 37秒90 |
※シドニー五輪以降。トリニダードはトリニダード・トバゴ
- 400メートルリレーの基本技術
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- アンダーハンドパス
- 手のひらを下に向けた状態で、バトンを受ける。両者が接近しないと渡せないが、スピードを落とさず、ミスが少ない。07年世界選手権の上位5カ国中、アンダーハンドは日本だけ。オーバーハンドは、互いの腕を伸ばすため距離を稼げるが、ミスをしやすい。
- バトンを持つ手
- タイムロスにつながるため、一切持ち替えない。1走は右手、2走は左手、3走は右手、4走は左手。これだとコーナーを走るときのロスが少ない。
- バトンパスの位置
- 受け手がより加速しているTOZの終盤で渡す。失敗した時のリスクはあるが、タイムは短縮できる。
- 声
- バトンを渡す時、「はいっ!」と声を掛ける。英語圏のチームは「スティック!」。
- リレー種目の北京五輪出場状況
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記録の有効期限は、7月16日まで。その時点での世界ランク上位16カ国に出場権が与えられる。
- 男子1600メートルリレー
- 世界ランク11位で、出場権あり。アテネ五輪は4位も、現在はそのレベルにない。個人種目の400メートルでも五輪参加標準記録A突破者が金丸だけ。
- 女子400メートルリレー
- 世界ランク18位で、出場権なし。北京プレ大会や欧州遠征などで記録樹立に挑戦したが、16位以内に入れなかった。
- 女子1600メートルリレー
- 世界ランク13位で、下からの追い上げがあると危ない状況。1972年ミュンヘン五輪で新種目に採用されて以来、出場経験がなく、決まれば初出場になる。
- リレーの世界ランク
- 2レースの平均タイムで、世界の上位16カ国が五輪への出場権を得る。参加標準記録はない。記録の有効期限は07年1月1日から08年7月16日までで、記録が認定されるのは国際陸連が定めた国際大会に限る。日本の場合、ベスト記録もセカンド記録も07年の世界選手権(予選と決勝)でマークした。



