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北朝鮮が見せた強さと中国が見せたもろさ

2008年5月29日

 女子アジア杯が28日、ベトナム・ホーチミン市で開幕した。大会初日のカードは午後5時(現地時間)からグループAの北朝鮮-タイ戦、午後7時30分からは同じくグループAの中国-ベトナム戦である。この日試合のないグループBの日本はというと、午後4時から市内のスポーツセンターで前日練習。試合会場からはタクシーで30~40分ほどの距離にある。

 日本の練習はもちろん無視できない。しかしそれを最後まで見届けていると、開幕試合に間に合わないのだ。現在アジアだけでなく世界でも有数の強豪とされる北朝鮮の仕上がり具合も気になる。迷った挙句、日本の練習の始めだけをチラッと見て中座し、開幕試合をキックオフから観戦することにした。どのみち試合前日は軽めの練習しかしないし、コメントにしても実戦をこなす前は「頑張ります」「明日が楽しみです」といった漠然としたものしか出てこない。翌日の先発予想メンバーがどうであろうと、それは実際に試合が始まればわかることだし。だからなでしこの練習をしっかり見るのは大会が始まってからでもいいや、と考えてタクシーでまず日本の練習グラウンドに向かっていたら、途中で激しいスコールに遭遇。自分の国を軽視した報いか……。

 このスコールで道が込んで到着が遅れたせいもあり、練習会場にいられたのは結局ほんの10分ほど。ウォーミングアップに励む荒川をカメラに納められたのが唯一の収穫らしい収穫だった。

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 さてアジア杯開幕戦である。ミャンマーでのサイクロンの犠牲者を悼み、北朝鮮とタイの選手がセンターサークル上で黙とうを捧げた後、キックオフされた。

 相変わらず北朝鮮は強い。エースFWリ・クムスクらのベテランに、07年のU-20女子W杯で優勝を経験した若手がうまく融合してきた。全員がよく走り、どんどんパスコースやスペースを作る。タイ戦では2番のボランチ、キム・キョンファが出色だった。小柄だがスピードとキック力があり、機を見ての飛び出しでたびたび相手ゴールを脅かしていた。センターフォワードや両翼の快足選手にばかり気を取られていると、彼女にしてやられることになる。

 もうひとつ北朝鮮で忘れてはならないのが、組織的な守備だ。本来なら格下のタイが相手なのだから、1対1で臨んでもわけなくボールを奪取できる。にもかかわらずこの日の北朝鮮は守備の際、必ず1人の相手選手を2人以上で挟み込む、あるいはコースを限定させるようなディフェンスをしていた。こうなるとタイに為す術はない。パスの受け手がどこにいるかも関係なく、いたずらに前へ大きく蹴りこむことしかできなくなる。試合を通し、タイはノーチャンスだった。5-0というスコア以上のワンサイドゲームで終わってしまった。

 北朝鮮が相手だったことを差し引いても、タイは低調過ぎたと言える。実力差のある敵を相手にした時の個人・団体の戦術というものがまるで感じられない。昨年日本と五輪予選を戦った時よりもチームが退化してしまった印象だ。技術的には悪くないだけに、なんとももったいない気がする。

 ところで、この試合の後半途中ですごいシーンに出くわした。バックグラウンド側のスタジアム外で突然ファンファーレの生演奏らしき音がしたかと思うと、それが行進曲に変わって段々大きくなる。と突然、ゴール裏とバックスタンドの境にあるゲートから、赤のブレザーに白のスラックスといういでたちのマーチングバンドが、1列になってブガチャカ演奏しながらスタンドに入場してくるのである! 先頭にはベトナム国旗を掲げた旗手が。観客は試合そっちのけで大歓声だ。楽隊はバックスタンド上段中央まで来ると演奏をやめて隊列を組み、それからやにわにまた演奏を始めた。しかも今度はアメリカの大学がフットボールのハーフタイムにやるような、振り付けつきときた! みんなで左右にステップ踏んで、くるっと回って……。もう、見てるこっちは腹抱えて、のたうち回って笑った。なんでサッカーの試合で? なんで試合中に? なんで振りまでつけて? 

 彼らは主催側の「仕込み」の応援団なのだ。第2試合で登場する地元ベトナムを応援するため、そして大会全体を盛り上げるために借り出されたらしい。前回オーストラリア大会もそうだったが、女子サッカーの試合は客が集まらず、閑散とした雰囲気で行われがちだ。当然、選手のモチベーションも下がろうというもの。それを解消するためなら、多少ピント外れでもあれはあれでアリかもしれない。事実僕はマーチングバンドが入場してくる時に大笑いしながらも、不思議な感動でぞぞぞっと鳥肌が立っていたことを白状しておく。明日以降も毎日、演奏しながら入場してくれることを彼らには期待したい。でも日本の試合ではやめてね。

 その彼らがフル稼働して演奏したのが第2戦の中国-ベトナム戦である。結果は応援むなしく、0-1でベトナムの敗北。4人のディフェンスの後ろにスイーパーまで置くという布陣を敷いたが、人数をかけただけで守備組織が構築されていないのでは守り切れるはずもない。攻撃もタイ同様、前にただ蹴るだけ。そんな相手に1点しか取れなかったのだから、前回覇者の中国としては満足の行かない結果だろう。

 しかし僕は、これが今の中国の実力だと思う。善戦したベトナムの中国人監督、チェン・ユンファ氏は「世界的な強豪である中国を相手に点を取るのは困難だった」と試合後に語ったが、それは自分の母国をひいき目に見すぎというものだ。確かに90年代半ばまで、中国の女子サッカーは世界の3指に数えられた。だが今や世界的強豪どころか、アジアのトップグループからも滑り落ちかけている。前回女子アジア杯は優勝こそしたが、サッカーの質はお粗末なものだった。今年2月の東アジア大会では、格下の韓国相手にあやうく星を落とすところだった。一昨年からAFC入りしたオーストラリアも、実力で中国を上回る。そして日本はこのところ、中国相手に3連勝している。しかも危なげなく。

 ここ2、3年の中国は、とにかく細かい機動力がない。恵まれた体格を頼りにフィジカル勝負を挑むか、空いたスペースにボールをだしてよーいドンで相手とかけっこをするかの時代遅れのサッカーに終始している。小柄で戦術的にも乏しい東南アジアの国には通用しても、こんなスタイルではアジアのトップレベルに太刀打ちできるはずがない。

 原因は簡単。中国サッカー協会が過去の栄光の幻想から抜けきれず、現実の姿が見えていないからだ。そして時にそれが見えたとしても、協会として危機感を共有できないからだ。その証拠にこの2年で中国は欧州から2人の女性監督を招いた。だが2人とも中国協会が支援体制を整えないばかりか、たびたび選手選考や練習内容などに関し口出ししてくることにあきれ果て、辞表を叩きつけて自国へ去っていった。それを受けて中国協会が白羽の矢を立てたのが、中国女子サッカーが世界に覇権を唱えていた時の監督、シャン・ルイファ氏である。夢よもう一度、というわけだ。

 その結果が、ベトナム戦で見せた相変わらずの「人もボールも動かない」アンチモダンサッカー。それでも愛国心と自尊心に萌える、いや、燃える中国人記者達は「今大会での優勝の確率は?」などイケイケの質問ばかりしてたけれど。

 中国の復古主義の監督人選が吉と出るか凶と出るか、すべては北朝鮮戦で明らかになるだろう。A組の見所はこれに尽きる。

※写真は女子アジア杯開幕戦「北朝鮮-タイ」のキックオフ前の両国選手。センターサークル上に立ってミャンマー・サイクロンの犠牲者に黙祷を捧げた。

河崎三行コラム『五輪の花へ!なでしこジャパン』

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河崎 三行(かわさき・さんぎょう)

 1965年(昭40)8月13日、高松市生まれ。港湾労働者、建設作業員、スポーツ新聞社勤務等を経てフリーランスライターに。時に自動車産業、ミシュランガイド東京版、チェ・ゲバラ、環境問題などについての記事を執筆することもあるが、主な取材対象はサッカーをはじめとするスポーツ。近年は日本の女子サッカーとオーストラリアのサッカーを継続的に追いかけている。著書に『チュックダン!』(双葉社)。




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