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若い力に天狗の鼻をへし折られたなでしこ

2008年5月30日

<女子アジア杯:韓国3-1日本>◇29日◇1次リーグB組◇ベトナム・ホーチミン

 夕方にホーチミン市を見舞ったスコールは、前日の比ではなかった。大会初日のものは若干強めではあったが、日本でも「にわか雨」の範疇に入るものだった。だが今日のは違う。バケツをひっくり返したような豪雨が突然降ってきて、ピッチが一瞬にして水溜りになってしまったのだ。降り出したのは今日の第1試合、午後5時から始まったオーストラリア-台湾戦の前半30分あたりだった。グラウンダーのパスがピッチ上ですぐに止まってしまう状態、といえばその状況がわかってもらえるだろうか。

sc-nadeshiko-080530-0301.jpgオーストラリア-台湾の第1試合は激しいスコールの中で行われた。

 こうなるとキック力やパワーのないチームが俄然不利になる。開始早々は意外にもオーストラリアを押し込み、ゲームが落ち着いてからも何とか1失点で耐え忍んでいた台湾だったが、スコール到来後は立て続けに3失点を喫してしまって万事休す。試合後にオーストラリアのセルマーニ監督も「台湾の集中した守備と鋭いカウンターには手を焼いた」と評価したほどの出来だっただけに、台湾にとっては突然の天候の変化が悔やまれた。

 もっともスコールはやはりスコールであって、瞬間の雨量は多くても長続きはしない。第2試合の日本-韓国戦の前にはぴたりとやみ、ピッチ上の水溜りもとりあえず姿を消した。が、第1試合ほどではないにせよ厳しいコンディションで試合が行われるであろうことは、容易に想像できた。

 そのぬかるんだピッチの上で、日本は韓国に完敗してしまう。

sc-nadeshiko-080530-0302.jpg試合後、選手全員で手をつないでスタンドの応援団に挨拶する韓国チーム

 3つの失点はいずれもミスがらみのもの。1点目は相手のパスをカットした磯崎がボール処理にもたつくところを相手FWにかっさらわれ、ゴールに流し込まれた。2点目は守備の人数が充分足りていたにもかかわらず、ゴール前のマーキングがぼやけていたために右からのクロスをフリーで合わせられた。3点目はGKの正面に飛んできたグラウンダーのシュートを、名手の山郷にしては珍しく自分の手に当てながら後逸。2点目はともかくとして、1点目と3点目はピッチ状態の影響もないとはいえない失点だった。

 しかし日本の敗因を、この日の重馬場そのものに求めることはできないと思う。特に攻撃面では。

 ドライコンディション同様ではないにせよ、第1試合と違ってボールはそれなりにピッチの上を走っていたのだ。そして地面もぬかるんでいたかもしれないが、ドリブルができないほどひどい状態ではなかった。事実、大野は何度も相手DFを切り裂いていたし、韓国のFWも日本の守備陣を容易に飛び込ませないボールキープを見せていた。

 とすれば、水を含んだピッチでいかに攻撃を組み立てるかの工夫が足りなかったということだ。

 何とかボールをつなぐことはできるが、普段のようにスムーズには転がらない。パスの軌道には微妙なブレが出る。そんなピッチで日本のお家芸である細かいパス回しをやろうとしても無理だ。しかし日本は狭い場所へ短いパスを通そうとしては、相手に引っかかってボールを奪われていた。だからといって、相手の背後のスペースに蹴りこんでFWやサイドアタッカーを走らせるようなサッカーをする必要もない。それは日本の得意とするところではないし、第一、スペースに走りこめるような快足選手も日本にはほとんどいない(荒川はこの日、途中出場)。

 持ち味のパスサッカーを貫けばいいのだ。ただしいつもよりパスの出し手と受け手の三角形を大きくとって、ピッチをワイドに使う。それなら多少のパスのずれも許されるし、相手に引っかかってカウンターを受ける確率も低くなる。第1試合でオーストラリアが繰り返したのもそれだった。彼女達はキック力と体力があるから、豪雨の中でもそんなパスサッカーができる(ただしオーストラリアの方が日本より雨中の戦い方を熟知していたというわけではなく、晴れていても彼女達はそういうスタイルなのだ)。

 このあたりの方向転換を、ポジション名が文字通りハンドル=舵取りであるボランチの沢あたりができなかったのが悔やまれる。相棒の阪口が若さゆえか細かく、細かくやろうとしていただけに、なおさらベテランの修正力が必要とされた試合だった。そもそも韓国戦では、沢の攻撃参加自体が少なかった。現行のフラットな中盤の真ん中に沢を配置するようになって一層、日本は彼女の出来に左右される、言い換えれば沢への依存度が高いチームになったのではないか。その是非はともかくとして。

 攻撃が振るわなかったもうひとつの原因に、ルーズボールをことごとく韓国に拾われていたことがある。この日の韓国は非常に出足が鋭く、日本選手より先にボールに触れていた。仮に五分五分の勝負になった時でもしっかり腰を入れ、ボールをかき出して自分のものにしていた。韓国には大柄な選手が2、3人いるが、平均身長はむしろ日本より低いぐらいだ。しかし小柄な選手でも体格はがっちりしていて競り合いをものともしない。どの選手も体幹が強い印象を受ける。驚くべきことにあれほどのフィジカルパフォーマンスを見せたにもかかわらず、今年から監督になった元Kリーガーの安監督は試合後にこう語った。

sc-nadeshiko-080530-0304.jpg試合後記者会見での韓国代表・安監督

 「特に今日の日本戦に照準を合わせて調整をしてきたわけではありません。この大会での試合すべてが重要ですし、アジアカップ後には世界の女子強豪国を招いたピースクイーンカップという大会が、韓国で開かれます。その試合のことも今から視野に入れています。私達は若い、経験の浅いチーム。少しでも多くの経験を積み、もっと成長していきたいと考えています」

 そんな若い韓国選手と比べて、第一線での活躍が長いはずの日本の選手はどうもひ弱だ。女子サッカーでも、日本は韓国を相手にするとフィジカル勝負を挑まれる。だからそれを避けるためもあり、パスサッカーで韓国を翻弄しようとする。だがサッカーはフィジカルコンタクトを避けられないスポーツだ。アジアレベルでフィジカル勝負ができないようでは、五輪などの国際大会に臨んだ時にいくら「欧米勢のフィジカルにはかなわないから、人とボールが動くサッカーで対抗する」と目論んでも、基礎体力ベースの貧弱さで意図するパスサッカーが披露できないのではないか。ましてや大女揃いの中国と競り合えと言っているのではない。相手はほぼ同じ身長の韓国なのだ。日本がフィジカル勝負で韓国に負けるのをよしとしていい理由は、あまりないように思えるのだが…。

 精神論的なことは実証ができないのであまり触れたくないけれど、それでも気になったことを補足的に書かせてもらう。

 直前合宿での肉体的、精神的疲労。2カ月半後に控えたオリンピック。試合直前のスコール。ぬかるんだピッチ。相手は2月の東アジア選手権で圧勝した韓国。開始早々の先制点。これらが重なって、この日の日本選手はどこか浮き足立った気持ちでゲームを行ってはいなかっただろうか。スライディングで相手のパスをブロックするプレーは何度かあったが、イーブンボールを全身を使って競り合うようなシーンはほとんどなかった。ボクシングで言うところの足を止めての打ち合い、奥歯を噛み締めてのドツキ合いを「望むところ」と受けて立てる泥臭い土性骨も、例え女性であれ、時には必要なのではないだろうか。

 韓国戦はもう終わってしまった。いずれにせよ、次を見据えるしかない。佐々木監督も「そもそも東アジア選手権ができすぎでしたから。何かつまづきが来るとしたら今日のようなピッチコンディション、今日のようなひたむきな相手の時じゃないかと思っていました。初戦の敗北をいい肥やしにして、まずは次の台湾戦で勝ち点3を挙げることに全力を尽くします」

sc-nadeshiko-080530-0303.jpg試合後記者会見での日本代表・佐々木監督

 と動じた様子もない。ただし今大会の台湾は、以前のように計算できるお得意様ではない。ブラジル人コーチの下で個人技に磨きをかけており、キープ力もある。時に鋭いカウンターも見せる。格上相手には4バック+スイーパーという布陣を敷いてがっちり守ってくる。A組のベトナムと同じ守り方だが、ベトナムと違ってそれなりに組織的だ。大勝などと欲をかかず、1点差勝ちでもいいからまずは手堅く勝ち点3を積み上げることを狙いたい。

 まさかの初戦黒星スタート。しかし東アジア選手権優勝でちょっとばかり天狗になっていた日本の鼻は、五輪前までにいずれへし折られなければならなかったのだ。その時期が早く来てよかった、と思いたい。「雨降って地固まる」の例えもある。

 でもホーチミンじゃ、地が固まる前に次の雨が降っちゃうんだよな…。いやいや、縁起でもないことを考えるのはよそう。追い詰められたなでしこジャパンが逆境をいかにはね返すか-これから始まる彼女達の女子アジアカップ '08ストーリーに、格好の冒頭シーンが与えられたと解釈しようじゃないか。

河崎三行コラム『五輪の花へ!なでしこジャパン』

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河崎 三行(かわさき・さんぎょう)

 1965年(昭40)8月13日、高松市生まれ。港湾労働者、建設作業員、スポーツ新聞社勤務等を経てフリーランスライターに。時に自動車産業、ミシュランガイド東京版、チェ・ゲバラ、環境問題などについての記事を執筆することもあるが、主な取材対象はサッカーをはじめとするスポーツ。近年は日本の女子サッカーとオーストラリアのサッカーを継続的に追いかけている。著書に『チュックダン!』(双葉社)。




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