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なでしこが大勝で得た収穫と、台湾の現状

2008年6月01日

 試合前の記者控え室に台湾チームの通訳がいたので、代表や台湾女子サッカー事情について聞いてみた。

 今回ホーチミンにやってきた代表チームの平均年齢は、先発組でも21歳に満たない。サブに到っては16~17歳の選手がほとんどだ。チームの顔は10番のツェン・シューオ。02年に行われたU-19女子アジア選手権で大会MVPと得点王を獲得した。そして顔とまではいかないがユニークな存在なのが、DFのリン・チュンインとリン・マンティンの姉妹。姉が19歳、妹が18歳。代表で姉妹が同時にプレーするのは、台湾女子サッカー史上初のことだという。

sc-nadeshiko-080601-0303.jpg姉とともに代表に選ばれた妹のリン・マンティン選手

 ただ主力選手がここまで若いのは、苦しい事情がある。台湾では女子サッカーが以前に比べてかなり衰退し、高校や大学でサッカー部に入っている選手でも、卒業すると8割以上の選手が競技をやめざるを得ない。社会人となってプレーできる場がないのだ。そして大学で女子サッカー部があるのも、4校を数えるのみだという。

 女子アジア杯の第2回(77年)から第4回(81年)まで3連覇を遂げている台湾だが、現在最も女性に人気があるスポーツはバスケットになってしまった。そしてそのバスケットにしても、競技人口は多くない。スポーツをやる若い女性そのものがどんどん減ってきているのだ。勉強の妨げになる、と親が女の子にスポーツをやらせたがらないのだという。確かに台湾においてトップレベルの女子スポーツはあまり盛んではない。将来食べていくにはスポーツより勉強、女の子はより良い学歴を得ることの方が大事だと親が考えるのもわからなくはないけれど…。

 こんな社会状況ではあるが、台湾サッカー協会も女子サッカー強化に手をこまねいているわけではない。前々回触れたようにブラジルからコーチを招いて、これまでの台湾選手とは違った個人技を身につけさせようとしている。そして代表活動がない時の選手の練習を少しでも高いレベルで行えるよう、手を尽くしてはいる。通訳氏は言う。

sc-nadeshiko-080601-0302.jpg記者会見で悔しさをにじませる台湾チェン監督

 「代表の中でも有望な選手を選んで、日本のなでしこリーグのチームで練習させてやりたいんです。1年間でもいい、日本のクラブチームの選手と一緒に練習できれば、それは選手にとって素晴らしい経験になるはずです。もし実力が認められてなでしこリーグの公式戦にでも出場できれば、なおさらです。もちろんお金なんて要りません。機会を与えてくれるだけでいい。我々の選手を受け入れてくれるよう、日本サッカー協会やなでしこリーグの各クラブにメールや手紙を出しているのですが…」。何の返事も戻ってこないのだという。

 同じ日本人として、その仕打ちはないじゃないかと思う。協会は日常業務が忙しくてそれどころではないのかもしれない。クラブにしても現在維持で手いっぱいで、受け入れの余裕がないのかもしれない。しかしそれならそれで、断りの返事のひとつも出すのが礼儀じゃないか。

 なでしこリーグがまだLリーグと言っていたその創成期、台湾の一流選手も数人プレーしていた。彼女達は主力として、そして他の日本人選手の手本としてチームをけん引したのである。あの頃の恩を、あだで返そうというのだろうか…。

 このあたりで、本題である日本-台湾戦の話に切り替えよう。続きはまた最後に。

 日本は韓国戦でフル出場した選手を先発からすべて外し、メンバーの総入れ替えをして台湾戦に臨んだ。いわゆるターンオーバーというやつである。スタメンには熊谷、後藤という、今回代表初招集されたばかりの高校生2人も名を連ねていた。

sc-nadeshiko-080601-0301.jpgピッチに入場していく日本選手(手前・白)

 佐々木監督によれば、このターンオーバーは大会前から台湾戦で行うことを決めていたのだという。若手や出場機会の少ない選手に経験を積ませ、チーム力の底上げを図るためだ。大会前の合宿やベトナム入りしてからの練習でも、完全にグループを2つに分けたチーム作りをしていた。しかし言葉は悪いが、台湾戦に起用したのは韓国戦のメンバーより力が落ちるBチームである。星勘定に余裕がある時ならまだしも、グループリーグを突破するために絶対勝たねばならない試合で本当に実行してくるとは思わなかった。

 前半は少々てこずった。立ち上がりからの台湾の激しいプレスにパスミスを繰り返し、なかなかボールを支配することができない。反対にカウンターを仕掛けられる場面さえあったほどだ。が、左サイドバックの鮫島のアーリークロスがそのままゴールに吸い込まれて幸運な先制点を奪うと、日本はようやく落ち着きを取り戻した。8分後には左サイドをドリブルで持ち上がった後藤がセンタリング、それを宇津木が合わせて2点目。この追加点あたりから台湾選手の足が止まり始めたが、何とか日本の攻めに食らいつく姿勢はまだ見せていた。ここまでは、初戦のオーストラリア戦でなかなか侮れない相手だとの印象を与えた通りの戦いぶりだった。

 が、その頑張りも前半限り。試合後に台湾のチェン監督が「激しいプレスをかけ続けたせいで、選手は前半で体力を使い果たしてしまった」と語ったように、若く練習量も少ない彼女達には、90分動き回れるだけの体力と集中力がまだ備わっていない。後半の台湾選手は電池切れ状態だった。

 こうなると日本のパスが面白いように回り始める。後半10分までにまず2点を追加すると、佐々木監督は韓国戦で先発したFWの永里を、続いて大野を投入した。「ターンオーバーするのは前から決めていたけど、全員を90分引っ張るつもりもなかったからね。あそこが勝負の押しどころと思って、大量点を狙いに行ったよ」

 この監督の目論見どおり、あとはゴールラッシュ。日本は45分で9点を荒稼ぎし、11-0の大差で勝利した。

 先発組、ことにベテランを温存して回復期間を稼げたこと。そして得失点差や総得点の上でかなり有利となるスコアを残せたこと(この後に行われた第2戦で、オーストラリアは韓国相手に2点しか取れなかった)。これは第3戦のオーストラリアとの戦いに向けて大きな収穫だ。ターンオーバーで起用された選手も得るものは大きかったはずだ。ただ首脳陣にとって戦力の見極めになったかといえば、相手の状態が状態だっただけに難しい部分はあるだろうが。

 ただ敵の実力に関係なく、使う側の計算が立つプレーはある。例えばボランチの加藤が見せたポジショニングだ。常に味方がパスを出しやすいところに、早め早めに顔を出しに行く。印象的だったのは、センターバックの下小鶴の前に台湾選手からのパスの出し損ねが転がってきた時だ。下小鶴にボールが渡る前の時点ですでに加藤はポジションを移動し、下小鶴が簡単に斜め前へパスを出せる状況を作り出していた。あの時、台湾のFWは下小鶴へのボールを奪い返そうとプレスをかけに来ていた。もし加藤がポジション修正しなかったり移動が遅れたりしていれば、ボールを引っ掛けられて韓国戦のような失点を招く可能性もあったのだ。

 このように「気の利く」プレーが彼女の持ち味だ。だからこそ、長く代表でレギュラーを張ってこられた。佐々木監督体制になってから先発の機会が減っているが、リードした点差を守って逃げ切るといったシチュエーションでは、彼女のような存在はまだまだ頼りになる。もちろん彼女の良さは誰もが認めているし、佐々木監督のオプションの中にもとうの昔に入っているだろうけれど。

 この日の2試合の結果で、グループリーグ突破のための条件がはっきりした。韓国が最終節で台湾に引き分けたり負けたりすることはまずないだろう。とすれば2勝1敗。オーストラリアは現在2連勝で、日本は1勝1敗。勝ち点で並んだ場合は当該チーム間の成績で決まるから、日本がオーストラリアに2点差以上で勝てば決勝トーナメントに進める。

 五輪で同組となったアメリカ、ノルウェー、ニュージーランドと体格や戦術の面で類似点が多いオーストラリア。FIFAランクこそ日本の方が上だが、オーストラリアは女子アジア杯直前にアメリカと親善試合2連戦をこなし、ともに1点差で惜敗している。昨年の女子W杯でもグループリーグを突破してベスト8に入った。実力は日本に勝ると見るべきだ。そんな相手と、必勝を義務付けられた中で戦えるのだ。グループリーグ第3戦は、北京五輪に向けて格好のシミュレーションとなる。優勝より何より、このオーストラリアとの戦いこそが、日本にとって本大会出場の最大の意義なのだ。

 締めくくりとして、冒頭の話題にまた戻りたい。通訳氏が教えてくれた台湾チームの顔、ツェン・シューオは日本戦でも確かにその実力のほどを見せ付けた。小柄ではあるが高い個人技、切れ味鋭いドリブル、非凡なパスセンスを併せ持っている。ベレーザ以外なら、なでしこリーグのどのチームに行っても掛け値なしにエース級として通用するだろう。そして9番のタン・ウェンリンも、試合後の会見で佐々木監督が「試合前から日本が注意していた選手」として名前を挙げていた。

 日本で最も知名度のある台湾企業である日本エイサー(コンピューターメーカー)あたりに資金援助してもらい、日本協会やなでしこリーグ側も受け入れ態勢を整えて、なんとか台湾の有望選手を日本に呼べるようにならないものだろうか。受け入れチームにとっては格好の補強になる。もしかすると彼女達の来日がきっかけになって、援助企業と受け入れチームあるいはリーグ全体とのスポンサー契約にまで、話が進むかもしれないではないか。

 日台両国の女子サッカー発展にも、日本の台湾女子サッカーに対する恩返しにもつながる試みだと思うのだが、あまりに突拍子もないアイディアだろうか?

河崎三行コラム『五輪の花へ!なでしこジャパン』

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河崎 三行(かわさき・さんぎょう)

 1965年(昭40)8月13日、高松市生まれ。港湾労働者、建設作業員、スポーツ新聞社勤務等を経てフリーランスライターに。時に自動車産業、ミシュランガイド東京版、チェ・ゲバラ、環境問題などについての記事を執筆することもあるが、主な取材対象はサッカーをはじめとするスポーツ。近年は日本の女子サッカーとオーストラリアのサッカーを継続的に追いかけている。著書に『チュックダン!』(双葉社)。




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