「サッカー小僧」宮間あやの精妙フリーキック
2008年6月09日
<女子アジア杯:日本3-0オーストラリア>◇8日◇3位決定戦◇ベトナム・ホーチミン
宮間あやを見ていると、いつも
「サッカー小僧」
という言葉が浮かぶ。小柄で勝気で、いつもボールとじゃれあっている。にこにこ笑っていることが多いが、試合に負けるといかにもしょんぼりした顔になる。それがあまりに悔しい時は、ぽろぽろ泣く。
なにより、サッカーが好きで好きでたまらないという気持ちが伝わってくる。サッカーで人を驚かせたいといういたずら心に溢れている。
それはピッチの上で、彼女の素晴らしいテクニックとなって現れる。細かなボールタッチ、大胆なドリブル、必殺のスルーパス、変幻自在でありながら正確なフリーキック…。昨年の女子W杯イングランド戦で日本が挙げた2点は、すべて宮間のフリーキックによるものだった。特に、敵の壁の中に入った日本選手2人がキックの直前すっと外れた隙間にカーブのかかった弾道を通した1点目は、まるでブラジル人が蹴ったようだった。
彼女のイングランド戦の2本のフリーキックの映像は、開催国である中国のスポーツニュースで女子W杯2日目の「今日のゴール」として、番組エンディングに流されたほどだった。
サッカー小僧というのは、サッカーおたくの別名でもある。サッカーを研究するのが大好きで、それがまた細かい。
女子アジア杯期間中、宮間に今大会使用球について聞いたことがある。フリーキックのキッカーは、ボールを蹴った時の感触や飛び方の特徴を気にする。それによってキックの弾道が変わってくるからだ。今大会の使用球はナイキ製。五輪や女子W杯、あるいは日本で行われる国際試合で使用されている、蹴り方によって弾道が大きく変化するアディダス製のボールではない。彼女から返ってきた答えはこうだった。
オーストラリア戦の前日トレーニングで、宮間はフリーキックの練習を繰り返していた
「プーマやディアドラのボールに近い感じですね。重くて、ちょっと蹴りづらい。フリーキックも変化しにくいです。でも芯を叩けば動きは出ますよ」
日本ではめったに使われない会社のボールが例えに出てくるあたりが、彼女のおたくなところである。
女子アジアカップ最終日。日本は3位決定戦でオーストラリアと対戦した。前半17分、早くも日本が先制。しかしなかなか追加点が奪えない。試合は圧倒的に押しているし、ゴール前までボールは運べるのだが、最後のシュートが入らないのだ。枠を外れたり、キーパーの正面だったり、ディフェンスに当たったり。
準決勝の中国戦が似たような展開だった。後半途中までボールを支配し、数多くの決定機を作りながら1点しか挙げることができなかったのだ。そのうち日本選手の足が止まって、主導権を中国に持っていかれる。そして立て続けに3点を取られ、無残な逆転負けを喫したのだった。
もしかするとあの中国戦の二の舞か。そんな嫌な雰囲気が漂い始めた79分、日本はゴール正面やや左の位置でフリーキックを得る。ここでどうしても追加点をもぎ取りたい。キッカーはもちろん宮間だ。
自分でセット地点にボールを置き直し、敵の壁を見る。近すぎる。ボールから10ヤード離れていない。フリーキッカーはこれまでの経験を通して、10ヤードがどれほどの距離なのかを知っている。少しでも近ければ感覚ですぐわかる。すかさずレフェリーにクレームをつける。しかしレフェリーは、距離に問題はないと宮間の要求をはねつける。どう見ても近すぎるのに。でもま、いいか。蹴っちゃえ。あそこを狙えばいいんだし。
ゆっくりと、短い助走を始める。軸足を踏み込み、右足を振り抜く。ゴールマウスへ向けボールはまっすぐ飛んでいく。オーストラリアのキーパーは予測の逆を突かれたのか、反応できない。一歩も動けず、ただその弾道を目で追っているだけだ。次の瞬間、オーストラリアゴール右上隅のネットが揺れた。
2-0。ようやく突き放すことができた。
87分には沢のミドルシュートも決まる。日本はオーストラリアに3-0で勝利した。
スタンドの日本応援団に挨拶する日本チーム。右端で手を振る岩清水から数えて2人目が宮間
試合後、宮間は自分のフリーキックを振り返って
「あれは真っ直ぐの球じゃないです。ちょっと内側に巻き(=カーブをかけ)ました。狙った通りでしたね」
と涼しい顔で言う。女子W杯イングランド戦ほどの劇的な曲がり方じゃなかったけど、ナイキのボールではあのぐらいが精一杯?
「女子の筋力ではあれ以上無理でしょう。だから縦の変化より横の変化を狙いました」
言葉の裏には、
「オリンピック使用球だったら、もっとすごい弾道を蹴れる」
そんな自信が込められているようにも感じられた。




