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中国で狙われるなでしこ、不心得者への対策は

2008年6月26日

 ハンドボールの五輪アジア予選で不可解な「中東の笛」が話題になったが、北京オリンピック本番でなでしこジャパンが泣かされそうなものがある。「中国の笛」だ。

 昨年9月に中国で行われたサッカー女子W杯の、カナダ対オーストラリア戦でのことだった。場所は杭州。前半の43~44分が経過しようかという時間帯にピッピッピーッと大きな笛の音が鳴り響いた。フィールド上の両国選手は前半が終了したのだと思って競り合いをやめかけた。

 しかしそのすぐそばにいる主審は、慌てた様子でプレー続行を促すではないか。笛を吹いたのはレフェリーではないのだ。スタンドの観客がそっくりな音色のホイッスルを使い、あたかも審判のような吹き方をしたのである。ピッチに近い場所でこれをやられると我々取材者はもちろん、選手さえだまされてしまう。幸いスムーズにプレーは続けられたし、結局はその笛に影響されてどちらかに点が入るということもなく前半は終了した。

 だがたまたま何事も起こらなかったからよかったものの、これはかなり悪質ないたずらだ。その一件があってから注意して試合を見ていると、同大会中に何度も同じような場面に出くわした。さすがに上海のような大都市では観客も国際基準の観戦マナーに敏感なのか耳にすることはなかったが、杭州はもとより武漢や天津といった地方都市での試合では幾度となく聞こえてきた。

 このいたずら、悪質なだけでなく巧妙だからなお始末が悪い。試合中のべつまくなしにピーピー鳴っているのならただの騒音として聞き流せるが、反則ぎりぎりのプレーの時とか前後半の終了間際とか、いかにも審判が笛を吹きそうなタイミングを見計らっているから選手は勘違いを起こしやすい。その意味でこの犯人は決してサッカーを愛してはいないが、サッカーをよく知っているとは言える。

 中国人記者によるとこの笛は
「近年の中国サッカーにはびこっている悪習なのです。国内のプロリーグでは再三、スタンドからの笛でピッチ上のプレーが止まったことがあります。リーグやメディアも観客にマナー改善を訴えているのですが、いっこうに改まる気配がなくて……」

 とのこと。サッカーの応援風景には国ごとにいろいろなスタイルがあってしかるべきだが、競技に害を及ぼすものまでを〈お国柄〉だと笑って見過ごすわけにはいかない。そこは中国政府も五輪向け啓発キャンペーンの一環として何とか押さえにかかるのだろうが、いったん根付いてしまった習慣がそう簡単にぴたりとやむとも思えない。

 女子サッカーは国際大会が男子ほど多くないため、このような常識外れのハプニングに選手が慣れていない。北京五輪本番でもニセの笛によってプレーが止められてしまう事態は大いにあり得る。うがった見方かもしれないが、その笛が愉快犯による行き当たりばったりのいたずらとしてではなく、特定のチームを不利にするための作戦として吹かれたらどうなるだろう。そしてその標的が、なでしこだったら……。

 その可能性は否定できない。昨年の女子W杯のドイツ戦で日本が嵐のようなブーイングを浴びたことからもわかるように、北京五輪の女子サッカー種目に出場する12カ国のうち、中国人観衆に最も敵視されているチームは日本である。今回、スタンドの彼らがブーイングではなく、より効果的になでしこジャパンを「熱烈歓迎」する方法として疑惑のホイッスルを選択したとしたら……。

 もちろんオリンピックという大舞台になれば、中国国内の悪質なサポーターが試合を観戦できるチャンスは少ない。世界中からの観光客、あるいは不人気競技(残念ながら女子サッカーもそうだ)の空席を生めるために組織委員会や地元自治体によって動員をかけられた一般市民が多くを占めることになるからだ。そしてなでしこジャパンがグループリーグでニュージーランド、アメリカと戦う秦皇島はもともとリゾート地だから、国内のサッカーファンとは地縁が薄い。そして上海で行われるノルウェー戦も、昨年の女子W杯の例を見ればおそらく大丈夫。

 ただし決勝トーナメントで開催国・中国と対戦するようなことになれば、上海や北京といった大都市であっても「中国の笛」は頭に入れておくべきだろう。仮にそのようなことが起こっても、割れんばかりの大歓声で不心得者のホイッスルがかき消されればいいのだが……。

 サッカー界の格言の1つに<笛が鳴るまでプレーを止めるな>というものがある。審判ではなく選手自身が勝手にジャッジしてプレーの手を緩め、敵にボールを渡す愚を諌めたものだ。しかし北京五輪では新たにこんな格言が必要となるかもしれない。

<笛が鳴ってもプレーを止めるな!>

河崎三行コラム『五輪の花へ!なでしこジャパン』

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河崎 三行(かわさき・さんぎょう)

 1965年(昭40)8月13日、高松市生まれ。港湾労働者、建設作業員、スポーツ新聞社勤務等を経てフリーランスライターに。時に自動車産業、ミシュランガイド東京版、チェ・ゲバラ、環境問題などについての記事を執筆することもあるが、主な取材対象はサッカーをはじめとするスポーツ。近年は日本の女子サッカーとオーストラリアのサッカーを継続的に追いかけている。著書に『チュックダン!』(双葉社)。




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