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適応能力の不足が招いた痛恨のドロー発進

2008年8月07日

<北京五輪・サッカー:日本2-2ニュージーランド>◇6日◇女子1次リーグG組

 オリンピックの直前、サッカー専門誌の取材でオーストラリア女子代表監督のセルマンニ氏にインタビューした。オーストラリアは今年だけでも日本と3回、ニュージーランドと4回、アメリカと3回対戦していて、しかも昨年の女子W杯ではノルウェーと戦っている。つまり北京五輪グループリーグG組のすべての国に対する情報を持っているわけだ。そんなオーストラリアの指揮官に、ニュージーランド、ノルウェー、アメリカの特徴と、日本がそれぞれの国と戦った場合の展開予想を聞いたのである。

 初戦の相手であるニュージーランドに日本は勝つだけでなく、グループ内順位を考えてなるべく多くの得点を挙げることを目論んでいるのですが。そうこちらが話を始めた時、彼はこう答えたのだ。

「とんでもない! ニュージーランドこそ、その3ヶ国の中で日本が一番警戒すべき相手かもしれないよ。強烈なプレッシャーをかけて相手ボールを奪うや、一気に前線めがけてハイボールを放り込むか、そうでなければカウンターアタック。選手が大柄だからセットプレーでの空中戦も脅威だ。日本が一番苦手にしているタイプじゃないか。確かに実力的には日本が大きく上回っているが、決してあのチームを侮ってはいけないよ。大量点などと欲をかかず、1-0でも2-1でもいいからとにかく勝ち点3を奪うことに集中すべきだ」

この日試合を行う4ヶ国のミニ国旗を持った女性。それぞれの国から来た応援客に配っているのかと思ったら「一本10元(約160円)です」。売り物かい。この日試合を行う4ヶ国のミニ国旗を持った女性

 彼の予想は、見事に当たってしまう。

6日のグループリーグG組初戦、なでしこジャパンはニュージーランドの術中に完全にはまってしまったのである。

 日本はこの日、センターバックに主将の池田でなく矢野を起用した。佐々木監督はニュージーランドの激しいプレッシャーをかわし、DFラインから正確なビルドアップをするため、矢野の技術を買ったのである。

 が、激しいプレッシャーにさらされたのはセンターバックだけではなかった。両サイドバックも、中盤も、前線も、どのポジションにおいても日本選手がボールを持つや、ニュージーランドの白いユニフォームが素早く寄せてきた。

 その上、ピッチの芝は日本ではまずないほどの深さだった。厳しいプレスでコースを消され、心理的にも圧迫され、不慣れな芝に足を取られれば、身上のパスサッカーになかなか持ち込めない。パスの出し所を失って仕方なく横や後ろの味方に預ける、キックそのものをミスしてわざわざニュージーランドに攻撃権をプレゼントしてしまうといった場面が数限りなく見られた。

 もちろん日本も対策は練っていて、前半はハイボールをニュージーランドのディフェンスラインの裏へ意識的に蹴っていた。これは得点を狙ってと言うより、むしろ相手のラインを下げさせてプレッシャーを緩めようとの意図だったはずだ。

コンクリートのスタンドに直接打ち付けられたシート。これで最高ランクのカテゴリーA席コンクリートのスタンドに直接打ち付けられたシート。これで最高ランクのカテゴリーA席


 が、それでも敵はひるむことなくどんどん前へ出てきて、ボールを奪うや鋭いカウンターアタックを仕掛ける。特に右サイドハーフのライリーは俊足で突破力があり、再三日本の左サイドを脅かした。アメリカの女子サッカー界で1、2を争う名門、スタンフォード大でプレーしているのも頷ける好選手だ。

 一方で日本も徐々に調子を取り戻してはいた。芝の深さや厳しいプレスにようやく順応してきた沢、永里、大野、安藤といったところが細かいパス交換やドリブルでの切り崩しを始めたのである。決定機が訪れたのは前半32分だった。大野が永里からのループパスを受けてGKと1対1に。しかし狙いすまして丁寧に蹴ったシュートはわずかに右へ外れてしまう。GKのポジショニングが良く、確かにシュートコースはほとんど消されていたのだが、股間を狙うなり一度切り返しを入れて狙いどころを見つけるなりの機転は望めなかったか……。

 サッカーの常で、試合を支配している時にゴールを決めてしまわないと流れは相手に渡ってしまう。

 37分、右サイドをまたもたやすくドリブル突破したライリーがクロスを入れ、中に詰めていたヤロップが蹴りこんでニュージーランドが先制点を奪う。突破を許した柳田も、ゴール前でヤロップから一瞬目を離したマーカーの近賀も、元々は攻撃的な選手。佐々木監督は、守備面に目をつぶってでも彼女達の攻撃力にかけてサイドバックに起用し続けている。だがニュージーランド戦はその収支が赤字決算になってしまった格好だ。二人は最後まで、自分のプレーを芝状態や相手との距離感へアジャストさせることができなかった。

スタジアム内での飲み物の価格表。単位は中国元。コカコーラ1本約80円スタジアム内での飲み物の価格表

 ハーフタイムを挟んでも、悪い流れは断ち切れない。後半10分、コーナーキック時の競り合いで岩清水が相手選手を倒したとして、不可解なPKを宣告されてしまう。0-2。

 ようやくここで、寝ぼけまなこだった日本が目覚めた。いや、逆上に近かったかもしれない。選手達の足が別人のように動き始めた。〈格下相手にこのままで終わってたまるか〉そんな声が聞こえてきそうな変身ぶりだった。後半14分の安藤の右サイド突破からのクロス、20分の澤と大野のコンビによる中央突破、同じく20分の安藤のミドルシュートなどで再び主導権を握り返す。しかしいかんせん、どれも最後の詰めが甘くて得点を挙げるまでには到らない。このままではまた流れが相手に渡ってしまう--。

 するとまたしても、不可解なPK判定が下されたのだ。が、今回ファールを取られたのはニュージーランド。宮間がためらいもなくゴール右に突き刺し、助走の勢いのままネットに駆け込んでボールを抱える。それはすばやくセンターサークルへ戻された。

 前半は得意のキックに精彩がなかった宮間だが、芝に慣れたのかこのPKあたりから俄然輝きを取り戻した。左サイドから、ゴール前でフリーの大野へピンポイントのクロス(これは大野がボレーをミス)を送ったのをはじめ、起点として機能するようになってきたのだ。

ブロックの最前列に座ると目の前の手すりが邪魔になって、ピッチの上半分が隠れてしまう。どういう設計?ブロックの最前列に座ると目の前の手すりが邪魔になって、ピッチの上半分が隠れてしまう。どういう設計?

 佐々木監督もここが勝負どころとパワープレーに出た。荒川、丸山を続けて投入し前線に右から丸山、荒川、永里を、中盤に阪口、沢、宮間を並べる4-3-3の布陣に変更したのだ。日本は緊急時のパワープレーでなかなか活路を見出せなかったのだが、この本番になってようやくある程度の成果を上げた。荒川と丸山のスピードやキープ力でボールを圧倒的に支配できるようになり、疲れの溜まったニュージーランドは後手に回るしかなくなったのだ。

 40分。ニュージーランドのペナルティーエリア右外で日本がFKを得る。キッカーはもちろん宮間。直接狙うには厳しい角度だ。二アサイドへ速く低いボールを放つ。そこへ沢が走り込み、右足アウトサイドで面を作って合わせる。ボールはGKとゴールポストの間でわずかに開いていたスペースに吸い込まれた。同点。

 その1分後には宮間の左からのクロスを阪口がヘディングシュートしたが、少しボールが高すぎてジャストミートできず。これが日本の最後の決定機だった。

 2点のビハインドを追いついた精神力は見事だった。しかし2-2の結果は決して満足できるものではない。やりにくいタイプの相手ではあるが、唯一勝ち星を計算できるニュージーランドとの対戦で勝ち点1しか積み上げることができなかったのは、いかにも痛い。

 同じスタジアムで行われた第2試合、ノルウェーがアメリカを2-0で倒す番狂わせが起こった。優勝候補がいきなり崖っぷちに立たされたわけだ。次の日本戦は血相を変えて向かってくるだろう。

 日本はすでに阪口と岩清水がイエローカードを1枚づつもらっている。アメリカ相手にはファール覚悟で止めにかからねばならないことも多いだけに、守備の要の二人に課せられたこの足かせは重い。その上アメリカは気性の激しい選手揃い。競り合いの中でも相当荒っぽいことをやってくることが予想される。それに耐えつつ、熱くならずにボールを自分達のものにできるか。

 当然、試合を長時間支配するのは、アメリカの方だろう。しかしそのための準備はしてきているはずだ。ベトナムで行われた女子アジア杯での韓国戦や中国戦で得た教訓をもとに、波状攻撃を受けた場合の凌ぎ方のシミュレーションは、直前合宿で十分トレーニングを積んできた。それを実践する機会がまさに第2戦であるわけだ。

 そして、選手全員が会場の芝へ対応することも急務だ。確かに日本でのピッチに比べれて違和感があるかもしれない。だがそれは敵も同じ条件。そして深い芝は日本のパスサッカーに不利と言われるが、ノルウェーは同じ芝の上でグラウンダーの鋭いパスを何本も通していた。筋力の差? むしろ先入観の差ではないだろうか。ニュージーランド戦での日本は、グラウンダーのパスはつながりにくいと端から決め付けていたのか、必要のない場面で無理に浮き球のパスを使って相手に奪われることが多かった。少し会場が変わっただけで自分達のサッカーができませんでは、少なくない費用を使って海外遠征をしてきた意味がない。秦皇島のピッチは、決して日本の個性を殺すものではない。臆せず、いつもの自分達のスタイルを貫くべきだ。

 ノルウェー戦を見る限り、エースのワンバックを欠くアメリカに絶対的な攻め手はない。ふっと気を抜いた時に飛んでくる力強いミドルシュートとアタッカー陣の速さを生かしたオープン攻撃に注意を要するぐらいで、特別なことは何もしてこない。ひとつひとつの局面で頑張って粘り強くボールをつないでいけば、少なくとも引き分けには持ち込める相手だ。

 冒頭に登場したオーストラリアのセルマンニ監督も言っていた。「日本選手の機敏さや細かいパス回しは、アメリカ相手でも必ず生きるはずだよ」

 この『予言者』の言葉を信じてみたい。

河崎三行コラム『五輪の花へ!なでしこジャパン』

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河崎 三行(かわさき・さんぎょう)

 1965年(昭40)8月13日、高松市生まれ。港湾労働者、建設作業員、スポーツ新聞社勤務等を経てフリーランスライターに。時に自動車産業、ミシュランガイド東京版、チェ・ゲバラ、環境問題などについての記事を執筆することもあるが、主な取材対象はサッカーをはじめとするスポーツ。近年は日本の女子サッカーとオーストラリアのサッカーを継続的に追いかけている。著書に『チュックダン!』(双葉社)。




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