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反日感情と白人崇拝の壁を越えられるのか

2008年8月08日

 6日のニュージーランド戦でのスタジアム状況について記してみたい。

 やはりスタンドはガラガラだった。埋まったのはメインスタンドとバックスタンドの一部のみ。

日本-ニュージーランド戦のメインスタンドはがらがら日本-ニュージーランド戦のメインスタンドはがらがら

 客層は、出場国からの応援団以外では地元一般市民が中心。ただし彼らの目的はサッカーそのものの観戦ではなく、五輪というイベントに自分が参加した実感を得ることにあるようだ。競技中の盛り上がりどころも決してサッカーを深く理解しているとは思えなかったし、試合の行方にのめり込むよりも声援を送る自分に酔っているような人々がほとんど。ハーフタイムの電光掲示板に映し出された文字が、それを象徴しているかのようだった。

<INTERMISSION>

 休憩時間、とあったのである。これは演劇やコンサートの幕間を指す言葉だ。サッカーの試合会場では通常使わない。しかし、この日のスタジアムを訪れた人々にとっては一生に1度あるかないかのイベントの折り返しとなる、まさに小休止の時間であったに違いない。その意味で、休憩時間という表現は限りなくふさわしかった。ニュージーランドに声援を送るのに疲れた秦皇島の観衆は、飲み物を買うなりトイレに駆け込むなりして、ほっと一息ついていたのだろう。

バックスタンドもこの通りの閑古鳥。にもかかわらず、日本ではチケットが手に入らなかったという不思議…バックスタンドもこの通りの閑古鳥。にもかかわらず、日本ではチケットが手に入らなかったという不思議…

 誇張ではない。観客の大多数は、ニュージーランドを応援していた。これは紛れもない事実だ。昨年杭州で行われた女子W杯ドイツ戦のように日本に対するあからさまな敵意やブーイングはなかったが、両国国歌演奏の後の拍手の数からして違った。両国のチャンスに沸く時のスタンドの音量を比べても、明らかにニュージーランドびいき。日本の好機にもそれなりの歓声が中国人観客から挙がっていただけ、杭州よりましだったと言えるだろうか。

 それにしても同じアジアの、しかも隣国だというのにずいぶん嫌われてしまったものだ。以前の彼らは『阿信』(NHK連続ドラマ『おしん』の中国での放送時の題名)に涙し、高倉健の演技にしびれ、山口百恵の『秋桜』が愛唱歌だった。江沢民の目論んだ反日教育の浸透は、日本に対する中国国民の印象をかくも激変させてしまったわけだ。

 もちろん日中戦争時に我が国が行った侵略行為には、何の正統性もない。そして殴った側は忘れても殴られた側はいつまでもその痛みを忘れない、その原理もわかる。だが一昔前まで、「現代の」日本がここまで中国で敵視されることはなかった。ある時期から、そしてある世代以降、政府の意図によって国民感情が1つの方向へ操作されたのだ。やがてその国策は、スポーツの世界にまで持ち込まれた。

 嬉々として「シンチーラン、加油!(ニュージーランド、頑張れ!)」と声を合わせる彼らを見ていると、なんともやりきれない気持ちになる。作家の佐藤優氏が言うように中国の反日政策や中国人の反日感情はもはや逆戻しされることのない強固な事実であり、日本は今後『中国とはそういうもの』だと認識して付き合っていくしかないようだ。

 もっともこの日の声援の分布図には、反日感情だけに起因するとは決め付けられない要素も多々あった。

 中国人は、日本人以上に悲痛なまでの白人コンプレックスを抱えている。日常生活で接した機会が少ないからと言えばそれまでなのだが、中華思想、現代の世界の中心となるためには、まずこの世を牛耳る白人様の御機嫌を伺わなければという強迫観念にも似た国民感情があるように思われる。それはもちろん、アヘン戦争以来刷り込まれた自らの国力や黄色い肌に対する劣等感もあるわけだが。そう、アヘン戦争というほとんど言いがかり的な戦争で敗北を喫した歴史を持ちながら、現代の中国国民はイギリスを尊敬しているし、プレミアリーグサッカーに身をよじるほど恋焦がれている。中国のどの街でもいい、少し歩けばプレミアリーグのクラブのシャツを得意げに来た若者の姿は容易に見つけることができる。日本-ニュージーランド戦のハーフタイムには、若い中国人女性たちがニュージーランド応援団の白人の幼児に駆け寄り、「かわいいー」とばかりに一緒に写真に収まろうとする姿が後を絶たなかった。無理やり付き合わされる子供が初対面の東洋人にいくら恐怖の色を浮かべようとおかまいなしに、である。とにかく『白人の可愛い子供』と一緒に写った自分が誇らしいわけだ。

 さらにはニュージーランドの応援団の威勢がよく、中国語まで交えながら陽気に周囲をあおったことも無視できない。

 「シンチーラン、加油!」は、中国語に通じたニュージーランド人が音頭を取った結果なのだ。日本の応援団は選手の祖父・祖母年代を中心とした少数派が分散していた。「必勝」と書かれたハチマキを頭に巻くのが精いっぱいで、周囲に声援を募るわけでもなく、おしとやかに仲間内で静かに見守っていただけだった。これではいかにも分が悪い。

 トドメは試合後にニュージーランドチームが披露した『ハカ』である。ラグビーのオールブラックスも取り入れたニュージーランド・マオリの戦いの舞いを、女子チームが揃って踊ったのである。これで盛り上がらないわけがない。同国の応援団はもとより、周囲にいた中国人観衆も大いにウケた。日本は男子代表の試合でも一糸乱さぬチャントを聞かせるが、どれもメロディーは欧州や南米の借り物だ。独自性、しかも選手たち自身が参加するパフォーマンスとなると、日本が他国に誇れるものはいったい何が見当たるだろう。

試合後、日本応援団が陣取る一角にあいさつするなでしこジャパン試合後、日本応援団が陣取る一角にあいさつするなでしこジャパン

 北京五輪本番は今日から始まるが、このような国で開かれる五輪で日本はどれほどの成績を収められるのか。逆風と言えばこれほど逆風の吹く大会はない。88年ソウル(これも隣国だ)五輪以来ではないか。

 それでいて、人と人として付き合ってみると非常に誠意溢れる人たちだったりするから、中国人はわからない。もっとも僕がこれまで接してきた人はすべてサービス業か学生ボランティアに限定されているわけで、いわゆる営業トークしか知らないわけではあるのだけれど。

 中国の人々(共産党一党独裁下の中華人民共和国国民ではない。4000年の歴史でもまれた中国地域の人々のことである)と触れ合う旅を、女子サッカー競技終了まで続けていければと思う。

河崎三行コラム『五輪の花へ!なでしこジャパン』

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河崎 三行(かわさき・さんぎょう)

 1965年(昭40)8月13日、高松市生まれ。港湾労働者、建設作業員、スポーツ新聞社勤務等を経てフリーランスライターに。時に自動車産業、ミシュランガイド東京版、チェ・ゲバラ、環境問題などについての記事を執筆することもあるが、主な取材対象はサッカーをはじめとするスポーツ。近年は日本の女子サッカーとオーストラリアのサッカーを継続的に追いかけている。著書に『チュックダン!』(双葉社)。




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