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中国対策、秦皇島対策…なでしこどうする

2008年8月13日

<北京五輪・サッカー:日本5-1ノルウェー>◇12日◇女子1次リーグG組

 地下鉄の上海体育場駅で降りて地上に出たら、外は雷雨だった。一時的な大雨が降った10日と同じように、夕方から鉛色の空が広がっていたからまずいとは思っていたが、やはり試合前に降り始めてしまった。それとわかった瞬間、ノルウェー戦での日本の敗北を覚悟した。水浸しのピッチの上で、筋力があるノルウェーの選手と蹴り合いのサッカーをして、勝てる見込みはない。

ようやくスタジアムに着いたころには空模様がさらに悪化して横なぐりの豪雨となり、1階スタンドの観客はコンコースに避難していた。それをみて逆に希望が湧いてきたのだから、僕も現金なものだ。こうまでひどい天候の中で試合はできない、おそらく延期になるだろう。選手の安全のためにも、ゲームの質の維持のためにも、観客のためにも、と。当然、あらためて乾いたピッチの上でプレーできた方が、日本にとってありがたい。

試合開始1時間前まで、上海体育場にはものすごい雷雨が降り注いでいた

 だが、いつまで経っても試合中止のアナウンスはない。それどころか電光掲示板が「試合開始まであと1時間」「あと45分」と、キックオフが刻々と迫ってきていることを告げているではないか。競技日程の変更を嫌がる組織委員会が無理にでも試合をやらせるつもりだな、これも中国の嫌がらせというやつなのか―。様々な邪推が頭の中を駆け巡っていた。

 ところが試合開始30分前あたりだろうか、それまでの豪雨がぴたりとやんだ。この激変ぶりも、2日前とそっくりだった。どうやらキックオフ前に天候が回復するであろうことを、運営側は予測していたようだ。ただ雨は上がったにせよ、あれだけ降りしきった後のピッチコンディションは最悪のはずだ。事実、試合前練習は中止となったらしく選手たちが一向にグラウンドに出てこない。どちらにせよ日本が不利な条件に変わりはないのだ。

 国旗とともにようやく選手が出てきた。国家演奏、握手、コイントス、円陣、そしてキックオフ。なんとピッチはぬかるんでいなかった。きれいにボールが転がるのだ。水の浮いた芝の上を跳ねるように飛んでいくわけではない。97年、全国運動会(日本の国体に相当)のため建設された上海体育場の質の高さには、正直驚かされた。中国の建造物は見てくればかりが立派で実質が伴っていないものが多いのだが、このスタジアムは本物だった。日本でもここまで水はけのいいピッチはお目にかかれない。

 ピッチがよければ日本のパス回しやドリブル突破が生きる。キックオフ早々から日本は果敢に攻め立てる。しかしいつものごとく、ラストパスやシュートに精度を欠いて得点までには至らない。やがて15分すぎあたりから流れは徐々にノルウェーへ傾き出す。

 昨日、ノルウェーのサッカーは退屈だと書いた。しかし、この日のノルウェーは退屈どころか、昨年の女子W杯時の好チームに戻っていたのである。

 ウイングを走らせるだけでなく、パス交換で中央突破してからのスルーパスも随所で見せた。第2戦までは攻め上がりを見せなかったボランチのステンスランド、さらにはセンターバックのホルプスタッドまでがどんどん上がって攻撃に絡んでくる。

 また、守備時にはセンターフォワードのグルブランドセンを残して両ウィングが中盤に下がり、バックスとの2ラインを形成する。この1列目と2列目が高くコンパクトに保たれているので、態勢を整えられると昨日触れたような広大な中盤スペースは消滅してしまう。

 やはり1、2戦目のウイング攻撃に頼ったスタイルは、ピッチコンディションや対戦相手をにらんでの『秦皇島仕様』だったようだ。上海でのノルウェーは、サッカーが一気に現代的になった。要注意の快足ウイング、カウリンは柳田に代わって先発起用された左サイドバックの矢野がよく抑えていた。しかし、意外にもノルウェーの方が日本のDFラインのギャップを突いて攻めてきたのだから、見ているこちらはあっけに取られてしまった。

 一進一退の攻防が続いていた27分、『上海仕様』のノルウェーらしい得点が生まれる。攻め上がっていたホルプスタッドがペナルティーエリア左前でボールを拾って右前方へスルーパス。これに右MFのクヌートセンが反応し、日本のゴール左にたたき込んだのだ。必勝を期した日本が奪われた、まさかの先制点。しかし幸いだったのは、3位通過争いのライバルだったF組の北朝鮮が一足早く最終戦で負け、たとえ1点差でも勝てば決勝トーナメントに進出できる状況だったことだ。試合前にそれを知っていた佐々木監督は、選手たちを「たとえ先制点を取られても、ノルウェーから2点は取れる。恐れずこれまでと同じサッカーをやろう」と送り出していた。折り込み済みの展開だったせいか、選手にさほど落胆の様子は見られない。そしてまたクヌートセンのゴールは、つけてはならない選手の心に火をつけてしまっていた。

 宮間あやである。クヌートセンのマーク役でありながら一瞬の隙を突かれ、失点を招いてしまったのだ。それでなくても第1戦、第2戦の彼女は本領を発揮できずにいた。「自分のミスは攻撃面で絶対に取り返してやろうと思ってました。これまで日本が流れの中で得点できなかったのも、私のクロスの質が悪かったせいですから」。責任感の強い彼女は、この決意をすぐプレーで表した。失点の4分後、大野からのパスを受けて左サイドを突破。DFラインとGKの間に低く速いクロスを送った。そこへ詰めていた近賀が右足ボレーで合わせ、すぐに試合を振り出しに戻した。近賀もまた、初戦で失点につながったミスの雪辱を誓っていた選手だ。

 宮間はこのアシスト以降、プレーが冴え渡る。パスは正確でクロスは鋭く、ドリブルで相手を翻ろうし、守備に回るや素早い寄せで相手を追いまわした。

 守備時のノルウェーの2ラインは確かにコンパクトだが攻守交替の直後、つまり陣形が整う前を突けばやはり日本が使えるスペースが中盤左右に広がっている。宮間のプレーはまさにノルウェー攻略の原動力となるものだった。

 逆に前半で気になったのが大野と安藤だ。大野は前を向いてボールを持った際に敵DFへチャレンジする意識が少なく、もっぱらつなぎ役に徹していた。積極性を見せないとゴールの確率は高まらないし、仕掛けるからこそつなぎ役となった時にそのプレーがまき餌として生きるのだ。彼女の力を持ってすれば抜けるチャンスが何度かあったのに、味方の攻め上がりをわざわざ待っている姿が残念だった。

 安藤は右サイドの突破こそ再三見せていたが、得点機で体を投げ出すことができないひ弱さが歯がゆかった。宮間の左からの絶好のクロスが、ゴール右前で待つ彼女目掛けて飛んできたことが前半だけで2度あった。いずれもダイビングヘッド、ダイビングボレーで触れば1点、の場面。しかしいずれも彼女が飛び込みをちゅうちょしてクロスが目の前を通過したり、合わせるタイミングが遅れて敵にボールが渡ったりしていた。

 同じ中盤のテクニシャンでも沢や宮間はそんな時、度胸一発で飛び込むことができる。安藤がヘディングや泥臭いプレーを得意としていないのは承知しているが、それでも決定的なチャンスとあらば何とか体ごと押し込もうという気概を見せてほしかった。

ハーフタイムのノルウェーベンチ。雨の影響でピッチで練習できないサブの選手は、控え室に戻るでもなく無為に時間を過ごしていた。この試合に負ければ後がない日本との温度差を感じた

 1-1のままハーフタイムへ。やはりピッチ上で練習することは許されていないようで、日本は選手全員が控室に引き揚げている。一方、ノルウェーのベンチにはサブの選手がそのまま居座って談笑しているではないか。チームとしての一体感やこの3戦目にかける思いについて、日本とかなりの温度差を感じた。

 後半開始。日本は早い段階で追加点がほしい。すると6分、意外な形で得点シーンが訪れた。宮間が蹴ったFK後の混戦から、ノルウェーゴール前に送られたボールに安藤がスライディングで合わせに行く。そのボールを同じくスライディングでクリアしようと慌てたフォルスタッドが、オウンゴールをしてしまったのだ。やはり安藤とて、泥臭さを厭わない意志はしっかり持っている(次は浮き球のクロスにもこのガッツを見せてほしいというのが僕のぜいたくな願いだ)。

 これで試合は完全に日本のペースとなった。7分に大野がドリブルで中に切れ込み、ペナルティーエリア正面から思い切ってシュート。これがノルウェーDFの足に当たって弾道が変わり、クロスバーをたたいた後にゴールマウス内へ吸い込まれた。

 そして25分、ゴール前の混戦で大野から渡ったボールを沢が合わせて4点目。37分には永里に代えて原を投入して4-1-4-1の布陣に変更、選手間の距離を近づけて守備の網の目を細かくする修正を加える。

 直後の38分、大野がポストプレーからうまくDFと入れ替わって抜け出し、左サイドを上がってきた原にパス。原はカットインしながらシュートコースを探し、3点目の大野と同じような位置から右足を一閃すると、ボールはGKの脇の下を抜けてゴールラインを超えた。5-1。大野も、後半は人が変わったように貪欲にシュートへの意欲を見せ続けた。

 タイムアップ間際の42分には疲れの見えてきた阪口を下げて加藤を入れ、そのまま守備を安定させて逃げ切った。経験豊富なベテランとはいえ、この時点で加藤を北京五輪のピッチに立たせることができたのは大きい。

試合終了時、スタジアムの電光掲示板に映し出されていた日本-ノルウェー戦のスコア

 相手とモチベーションに差があったにせよ、胸のすくような勝利だった。監督采配にも、土壇場できちんと結果を出した選手の精神力にも、拍手を送りたい。結果論かもしれないが、ノルウェーは現代的になったがゆえに日本にとってくみし易くなったのかもしれない。丁寧につないでくる攻撃なら、なでしこにとって対応はさほど難しいものではない。それよりむしろ1、2戦目のように、無骨で執ようなウイング攻撃でゴリゴリ行った方がノルウェーの勝機はあったように思われる。

 準々決勝は15日。場所は秦皇島。第2次世界大戦の終戦記念日に、開催国中国との戦いが待っている。しかし冷静に考えてみれば準々決勝進出国のうち、中国は実力的にもサッカースタイルの相性的にも日本が勝てるチャンスが一番大きい相手だ。

試合後、バックスタンドの日本人サポーターに挨拶するなでしこジャパン

 中国の応援一色となる雰囲気や敵意丸出しのブーイングなら、今年の東アジア選手権や昨年の女子W杯ドイツ戦で経験済み。加藤などは「気にならないです。逆に応援してくれてるって感じるぐらいですから」とケロリとしている。

 それよりも大声援で審判の笛が左右されることの方が怖い。偶然だろうが、秦皇島での日本戦は2試合とも妙なジャッジをするレフェリーに悩まされた(アメリカ戦などは、日本の試合だというのに同じアジアのタイ人審判が笛を吹いた。普段の彼女はAFCで1、2を争う名レフェリーなのだが、なぜか秦皇島でのジャッジングはおかしかった…)。優れた技術と強じんな精神力を持った審判団の起用を望みたい。

 そしてやはりピッチを無視するわけにはいかない。上海でのパフォーマンスが良かったのは後がない極限状態と開き直りのせいもあっただろうが、ピッチ状態が日本向きであったことも大きな要因のひとつだ。しかし秦皇島のピッチは過去2戦の内容からもわかる通り、なでしこジャパンの持ち味をそいでしまう。逆に中国は中長距離のパスでサイドアタッカーを走らせる攻撃、つまり秦皇島向きのサッカーができるチーム。そこが不安材料ではある。

 しかし日本も同じピッチで3試合目を戦うわけで、勝手知ったる場所ともいえる。そろそろ状況に合わせた『日本の秦皇島仕様』サッカーを見せてもらいたいものだ。もちろんノルウェーのごとく両翼に快足選手を抱えているわけではないから、また違うやり方が求められるわけだが。

試合後の上海体育場は美しくライトアップされていた

 中国対策。そして秦皇島のピッチ対策。佐々木監督やなでしこの選手たちが、準々決勝で何を見せてくれるのだろうか。

河崎三行コラム『五輪の花へ!なでしこジャパン』

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河崎 三行(かわさき・さんぎょう)

 1965年(昭40)8月13日、高松市生まれ。港湾労働者、建設作業員、スポーツ新聞社勤務等を経てフリーランスライターに。時に自動車産業、ミシュランガイド東京版、チェ・ゲバラ、環境問題などについての記事を執筆することもあるが、主な取材対象はサッカーをはじめとするスポーツ。近年は日本の女子サッカーとオーストラリアのサッカーを継続的に追いかけている。著書に『チュックダン!』(双葉社)。




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