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漢字の国のオリンピックなんだからさ…

2008年8月14日

 誰でも、自分の名前を間違えられていい気持ちはしない。たとえそれが外国でのことであっても。

 ことにスポーツの国際大会が舞台となると、選手名が会場でアナウンスされたり記事上で取り上げられたりするから、ちょっとした悲喜劇を巻き起こすことになる。

 まず発音。ただこれについては、オリジナルを強要することの方が難しい。母国語以外の発音は難しいものだし、読み方そのものがわからない場合だってある。だからこそ国際大会での選手名登録はアルファベットで行っているのだが、アルファベットだって幾通りもの読み方ができる。ヤンキースの松井秀喜はMLB入りした当初、他球場の場内アナウンサーから「ハイデッキー・マツイ」と呼ばれることがあった。Hidekiは英語圏の人間からすれば「ハイデキ」とも読めるのだ。

 なでしこの選手で言えば、07年の初春にメキシコで行われた女子W杯プレーオフ第2戦のスタジアムにおけるメンバー発表で、何人かの選手の名前が『変わった』。

 例えば柳田美幸が「ミジュキ・ジャナヒタ」、沢穂希が「オマレ・サワ」、宮間あやが「アジャ・ミジャマ」といった具合に。スペイン語の発音でyaはジャ、yuはジュ、giはヒとなり、hの音は発音しないのである。

 これくらいならまだいいほうで、岩清水梓などはかわいそうに、どの国の大会でもまずまともにアナウンスしてくれない。どうもAzusa Iwashimizuという綴りが、外国の人間にとって発音しづらいらしいのだ。オーストラリアでカタールでタイで、彼女の名前は「アザザ・イワショモゾ」やら「アズズ・イワシャマザ」やら「アズー・イワシュムシュ」やらと呼ばれた。

 一方の表記。これはアルファベットを使う国なら問題ない。大会での登録名をそのまま使うわけだから。ハングルも表音文字だからまず間違えない。アラビア語も……間違えない。たぶん。表音文字だから。

 厄介なのは、なまじ同じような文字を使う(といっても、あちらさんから伝わってきた言葉だからあんまり偉そうなことはいえないが)中国語である。漢字表記というやつがクセモノなのだ。日本人選手名が日本で使われている文字のまま表記されることの方が珍しい。

日本-ノルウェー戦翌日の新聞に掲載された戦評。安藤の藤の字が、「東」を表す略字になってしまっている

 まず、同じ漢字がないケース。現在の中国では漢字の簡略化が進められて、逆に日本語の方に元の字が残っていることがある。だから中国の漢字では対応できないことがあるのだ。それはまあ、仕方がない。

 次に、選手名の中にひらがなが使われている場合。ひらがなは日本独自の文字だから、中国語では当て字を使わざるを得ない。大会運営側や現地記者が良心的な場合は、日本チームや周囲の日本人記者に「この文字をあえて漢字で書くとするとどうなるんだ」と確認してくる。もっとも、聞かれたところでひらがなはひらがなであって漢字にできるものではないのだけれど。しかし稀に選手の親が「名前をあえて漢字にするとしたら、こう書くのだけど」という想いを持ち、それを子に伝えていたりすることがあって、選手本人から意外な答えが返ってくることがある。女子アジア杯時のこのコラムでも取り上げたが、宮間あやの御両親は心の中で「あや」に「純」の文字をあてているのだそうだ。だから彼女の名前を無理に漢字表記にするとしたら「宮間純」とするのが正しい。

 だが多くの場合、日本の側が一般に使われることの多い漢字名表記を適当に教えていることがほとんどで、宮間あやは「宮間綾」、近賀ゆかりは「近賀由香里」、海堀あゆみは「海堀歩」などと表記されてしまう。しかしこうやって無理に漢字にしたところで、中国語では「あや」「ゆかり」「あゆみ」とは発音してくれないから意味がないのであるが(逆に我々は中国人の漢字名を音読みしているが、それはオリジナル発音とはかけ離れている場合がほとんどだ)。

 と、ここまでが長いマクラ。

 12日に行われた日本-ノルウェー戦で目を疑うような光景を見たので報告したい。試合前のメンバー発表でのこと。電光掲示板に両チームの選手名が出たのだが、日本選手の漢字表記がムチャクチャだったのである。

同じく日本-ノルウェー戦翌日の記事(緑のマーカーは河崎によるもの)

 近賀ゆかりが「金川由香里」、宮間あやが「美山文」、沢穂希が「佐羽誉」、矢野喬子が「屋野京子」などなど……。この間違いだらけの選手名は、そのまま御丁寧に翌日の新聞にも掲載された。まさかと思って北京五輪公式サイトでの中国語表記を調べてみたら、なんとこのデタラメな漢字が使われていたから唖然とした。暇な人はぜひこのサイトの中国語版にアクセスしてみてほしい。なでしこジャパンできちんと漢字表記されている選手は、あの外国人泣かせのローマ字表記をもつ岩清水梓だけだという皮肉!

 想像するに、この芸術的な間違いに日本人は関与していない。日本語や日本人の名前をきちんと理解している者なら、ここまで妙なミスを犯すはずがないからだ。おそらくは中途半端な日本語知識を持った大会組織委員会の中国人担当者が、なでしこ選手のローマ字表記だけを見て、思い込みで勝手に漢字をあてたのだろう。それにしても宮間の「あや」に「文」を使うとは、凝った間違いをするものだ。

 漢字は音を表すと同時に、字自体に意味を持つ。そんなことは『小日本』の人間に指摘されなくたって、本家本元の中国ならとうの昔に知っているはずだ。だったら名前に込められた意味や想いまで変えてはいけない。
今からでも遅くない。正しい字を使いましょうよ、北京五輪組織委員会殿。中国は何よりメンツを重んずる国なのですから、知性を疑われるような間違いはすぐに訂正すべきです。略字を使うぐらいは構わないからさ…。

河崎三行コラム『五輪の花へ!なでしこジャパン』

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河崎 三行(かわさき・さんぎょう)

 1965年(昭40)8月13日、高松市生まれ。港湾労働者、建設作業員、スポーツ新聞社勤務等を経てフリーランスライターに。時に自動車産業、ミシュランガイド東京版、チェ・ゲバラ、環境問題などについての記事を執筆することもあるが、主な取材対象はサッカーをはじめとするスポーツ。近年は日本の女子サッカーとオーストラリアのサッカーを継続的に追いかけている。著書に『チュックダン!』(双葉社)。




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