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なでしこ、普段着のサッカーで中国を破る

2008年8月15日


<北京五輪・サッカー:日本2-0中国>◇15日◇女子準々決勝

 日本の『秦皇島仕様』サッカーとは。答えは戦法を変えることではなく、基本技術に修正を加えることだった。

 グループリーグ1、2戦の経験を生かして秦皇島のピッチの深い芝に合ったキック、トラップ、ドリブルを行う。それに徹した。すなわちキックの強度を上げてパススピードを確保し、トラップが極端に足元に入らぬようボールの勢いの殺し方をやや軽くし、つま先だけのタッチではなく足全体でボールに力を伝えるといった修正を指す。


f-sc-080816-1510.jpg試合前のGK練習に励む福元と海堀

 キックオフ早々のことである。宮間が左足でインステップキックを蹴った際につま先を芝に引っ掛け、意図した通りのパスにならなかった。ゴルフでいう『ダフリ』のキックになったのだ。一見、まだこのピッチに慣れることができてないんだなと感じさせる場面だった。しかしその逆で、あれが彼女にとってのプレー調整が完了した瞬間だったのではないか。

f-sc-080816-1510.jpg君が代に聞き入るなでしこジャパン

 「やっぱり普通に蹴ったらこうなる。だったらああやるしかない」。それを最終確認した後、過去2戦の肉体の記憶を引っ張り出しつつ、自分の技術の引き出しの中から最適なプレー感覚を選び出してアジャストさせた-。以上は勝手な想像に過ぎないが、その後の彼女はピッチ状況が原因と見られるようなミスは一切しなかった。

f-sc-080816-1510.jpg秦皇島のスタジアム上空にかかった月

 宮間のみならず、中国戦の日本選手は各人が各人の回路でピッチへの適応作業を完了させていた。あとは特別なことなどやらず、これまで積み重ねてきた日本らしいサッカーをやるだけでいい。佐々木監督はあえて動かなかった。

 短・中距離パスを相手選手の間やオープンスペースで連続的につなぎ、敵に的をしぼらせずに崩す。正確なキッカーによるセットプレーの機会を大切にする。相手がボールを持ったら素早く寄せてプレッシャーをかける。取れると踏んだら複数の選手で敵を挟んでボールを奪う。

 佐々木監督下でずっとやってきた、いやそれどころか前任者の大橋監督の時代も、その前の上田監督の時代でも一貫して追及してきた日本のスタイルだ。今の日本選手たちの特徴を最大限に生かして世界と渡り合っていくには、これしかない。

 もちろん中国への対策は最低限講じた。守備ブロックをしっかり作って敵のパスコースを封印し、中盤に蹴りこんでくるハイボールに対しても澤と阪口が体を張って競り勝った。右サイドの快足選手ピュ・ウェイや決定力のあるFWハン・ドゥアンにボールが渡った時には、容易に飛び込まずDFとMF、あるいはサイドバックとセンターバックではさみ込んだ。相手の心臓部であるボランチのチャン・ナ、ビ・ヤンの2人の周辺、特に背後のスペースを徹底的に突いて中盤での主導権を掌握した。これで2人はほとんど攻撃参加ができなくなり、中国は苦し紛れのオープン攻撃に頼るしかなくなってしまった。一気に数的優位を作ってくる中国得意のカウンター攻撃に対しても、日本DF陣は常に布陣的、心理的リスクマネジメントを怠らなかった。

 北京五輪に先立って行われた女子アジア杯での中国戦を存分に生かした結果だ。『負けて覚える相撲かな』という言葉があるが、新監督になって変ぼうを遂げつつあった中国の実情を身をもって知ることができたし、しかも悔しい逆転負けを喫したことで情報がより鮮明に刻まれた。女子アジア杯全体としてのレベルは五輪準備として物足りないものだったが、オーストラリア戦、中国戦は格好のシミュレーションとなった。

f-sc-080816-1510.jpg準決勝進出を果たし抱擁しあう日本選手

 負けた中国だが、彼女達には開催国のデメリットの方が出てしまったのではないか。熱狂的な声援を背にグループリーグを戦ったことで体が動き過ぎてしまい、ピークを早く迎えてしまったのだろう。そうとしか考えられないくらい、日本戦での中国選手の動きは重かった。特に出足の鈍さは致命的で、ルーズボールはことごとく日本がものにしていた。英シェフィールド・ユナイテッドからイギリス人フィジカルコーチを招いて体力強化に努めてきた中国だが、五輪本番での選手のオーバーワークまでは計算できなかったということか。

 ただ女子アジア杯の時からシャン監督が繰り返し言っていたように、中国は世代交代を進めている真っ最中だ。しかもエースのマ・シャオシューが大会直前にけがで登録抹消となっている。今後もアジアの強力な敵として、日本の前に立ちはだかり続けることは間違いないだろう。

 日本女子サッカー史上初となる、世界規模の大会での4強入り。これであと2試合戦えることになった。準決勝の相手は米国。どんなチームかはわかっている。ワンバックはいない。勝てない相手ではない。沢も中国戦後に語っていた。「グループリーグの米国戦では自分たちが主導権を握った時間帯もあったし、米国は日本に対してどこかビビってると感じた」。

 頼もしいではないか。もう会場は秦皇島ではない。北京。最高の舞台が用意されている。

f-sc-080816-1510.jpg試合後、スタンドの数少ない日本チーム関係者に手を振るなでしこ

 最後に中国戦での日本選手の寸評を。

福 元:90分通して安定したセーブ見せた。
近 賀:完全に復調。守備での応対も冷静。
池 田:集中力切らさずDFラインを統率。
岩清水:空中戦圧勝。ひやりとするミスも。
矢 野:攻撃でも出色の出来。負傷が心配。
安 藤:最後のキープの場面では本領発揮。
 沢 :得点後は黒子としてにらみ効かせる。
阪 口:個人技生かしボール散らし続けた。
宮 間:DF陣と連携した守備面で貢献大。
大 野:チェイシングとドリブルが冴えた。
永 里:シュート意識が飛躍的に高まった。
柳 田:突然の交代出場も無難にこなした。
丸 山:ドリブルキープで時計の針進めた。
荒 川:ゲームに入れず。復調が待たれる。

河崎三行コラム『五輪の花へ!なでしこジャパン』

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河崎 三行(かわさき・さんぎょう)

 1965年(昭40)8月13日、高松市生まれ。港湾労働者、建設作業員、スポーツ新聞社勤務等を経てフリーランスライターに。時に自動車産業、ミシュランガイド東京版、チェ・ゲバラ、環境問題などについての記事を執筆することもあるが、主な取材対象はサッカーをはじめとするスポーツ。近年は日本の女子サッカーとオーストラリアのサッカーを継続的に追いかけている。著書に『チュックダン!』(双葉社)。




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