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「金や銀は美しいが、銅だっていい色だぞ」

2008年8月19日

<北京五輪・サッカー:米国4-2日本>◇18日◇女子準決勝

 前半25分頃までは圧倒的ななでしこペース。
日本選手のキープ力の前にアメリカはうかつに飛び込めず、そうやってタメを作っている間に味方がどんどんパスコースを作って顔を出してくる。ペナルティーエリア付近までは楽にボールを運べた。

 守備でも、前線からの果敢なプレッシャーと複数選手での挟み込みで米国に自由を与えず、さらにはハイボールに対するヘディングでの競り合いでも引けを取らなかった。左サイドで快足のオライリーが何度か単独突破を見せていたが、これも最後にはつぶして楽にクロスを上げさせなかった。

 最高の立ち上がりだった。大野が17分に先制点を決め、直後にミドルシュートで米国ゴールを脅かした時には、ノルウェー戦の再現さえ感じさせた。25分あたりから日本はプレスのスタート地点をハーフウエーライン付近に下げ、守備ブロックを整えて米国の攻撃を迎え撃つ。これも当初はうまく機能し、早く同点にしようと焦る相手のアタックをことごとく跳ね返していた。

 が、女王はそれほどヤワではなかった。

 前半終了間際、立て続けにゴールを挙げ、ハーフタイム前に試合をひっくり返してしまったのである。日本チームが抱える問題として以前から指摘されていた、1度失点してしまうと立て続けにバタバタとゴールを許してしまう、試合を1度落ち着かせてペースを握り直すことができないという悪い癖が顔を出してしまった。

「みんながボールウォッチャーになってしまって、おたがいの距離が遠かった」(沢)
「試合に入り込みすぎてしまって、残り5分を守り切ろうという指示が出せなかった」(池田)
「(前半終了間際に連続失点した場面は)突然気が抜けて、集中できなくなってしまって」(矢野)

 北京五輪でのこれまでの試合では失点してもすぐに立て直しができていたが、米国相手の大一番では怒とうの圧力をかわしきれなかったわけだ。

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準決勝前の太極拳パフォーマンス

 伏線はあった。

 日本がプレス位置を下げた前後あたりから、米国FWのハクルズが日本のDFラインと中盤のラインの間、いわゆるバイタルエリアにすっと入り込み、フリーでボールを受けることが多くなってきたのだ。彼女がポストになって近くの味方に落としたり両翼を走らせるパスを出すことで、米国がどんどん好機をつくり出し始めた。だが日本は守備ブロックを崩さないことを優先したのか、ハクルズの侵入を許すままにしていた。だから彼女が危険な状態でボールを持って初めてDFがチェックに行き、釣り出されたところで手薄なスペースを突かれる、このパターンが最後まで続いた。基本位置は横並びの2トップでありながら、ボールと人の流れ具合を見ながらすっと0・5列下がって最も有効なポジションに入っていける、ハックルスの戦術眼も見事だった。

 また、しっかり構えてプレスのスタート位置を下げたことにより、相手陣内でセカンドボールを拾うことができなくなった影響も小さくないのではないか。DFやMFのクリアボールをアタッカーが敵陣内で拾えれば、そこを起点として一気に相手ゴールに迫っていける。だがその拾い手までもハーフウエーライン付近にいるから、せっかく攻撃を跳ね返してはまた敵にボールが渡る、の連続になってしまった。これではいつか耐え切れなくなってほころびが出ようというものだ。前半の2失点については佐々木監督が「もっと私がコーチングしておけばよかった」と試合後に述べたが、直接失点に結びついた両サイドの守備よりも、リトリートした中での状況対応に柔軟性を欠いていたことが悔やまれる。

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同じく準決勝前にトラック上を移動しながら披露されたチアリーディング。
これがまったく踊りが揃っていない

 後半の2点。これはもう、仕方がない。試合中にボールを100%支配することなどできないから、時には遠めからクロスやシュートも狙われる。そんな中の2つがどうしようもないコースに飛んでしまったのだ。

「自分のミスからの失点です。みんなに申し訳ない」

 生真面目な性格のGK福元は、シュートをはじき出せなかったことへの自責の念を口にした。だがその必要は全くない。あれはノーチャンスである。彼女は身長165センチの日本人GKとして、最大限のチャレンジをした。それどころか彼女だからこそ防げた失点が、後半だけでもどれほどあったことか。特にゴール前で1対1のピンチをぎりぎりまで動かず止めた92分のシーンなど、3点差という絶望的な状況の中でも最後まで集中力を失わない気持ちの強さの証明だ。福元は胸を張っていい。

 気持ちを示したといえば、終了間際のゴールも評価したい。丸山のドリブル突破後に生まれた、ガチャガチャした混戦の中からの得点。しかし混戦の中だからこそ、事前の予測がないととっさに反応できない。焼け石に水とは言うまい。決めた荒川の言葉通り、次につながる1点だった。

 前半25分過ぎからは、ほとんど蹂躙(じゅうりん)されたに等しい試合に見えたかもしれないが、0-1で敗れたグループリーグでの米国戦よりもはるかに日本の良さを見せた。

 しかし日本が米国のような強豪に勝つとなると、多少の試合ペースの行き来はあるにせよ準決勝前半25分までのような展開を、極限の集中力の中で90分間やり通さなくてはならない。それは精密機械を猛スピードで動かし続けるような高い負荷のかかる作業だ。肉体的にも精神的にもストレスにさらされるから、ちょっとしたことがきっかけでそのメカニズムが機能不全に陥ってしまう。

 今から書くことは準決勝敗北の戦犯探しではないので、誤解しないでほしい。単なる結果論だ。そして「個人的な見解に基づくこじつけ」のそしりから逃れることができないのも十分理解している。だから話半分で読んでもらいたい。

 前半の1失点目の直前、センターサークルあたりから日本ゴール目がけ、1本のハイボールが放り込まれた。それをヘディングクリアしようと日本のDFがジャンプしたのだが、予測したより軌道が高くボールが頭上を通過する、いわゆる「かぶって」しまった形になった。これは後ろの選手が何とか跳ね返したが、セカンドボールを米国が再度拾い、得点に結びつく右サイド突破につなげたのである。

 思いもよらぬ「かぶり」に他の日本選手があれっと思い、直後に失点に結びついてしまった。

 その瞬間、なでしこサッカーという精密機械がガラガラと音を立てて崩れたように僕には見えたのだ。

 ただ、何度も言うがこれは戦犯探しではない。それにDFのヘディングのかぶりなど珍しいことではない。敵より前でボールを捉えようとする積極性の表れでもある。ゲームの流れを変える潮目がそこにあったように思えた、というだけの話だ。

 うまく動かなくなった精密機械はオーバーホールし、油を差せばまた本来の動きを取り戻す。中2日でどこまで復旧させられるかは、エンジニア=佐々木監督の手腕にかかっている。

 3位決定戦の相手はドイツ。日本サッカーが唯一五輪でメダルを取った40年前のメキシコ大会には、代表チームにデットマール・クラマーというドイツ人コーチがいた。彼が3位決定戦前に日本選手たちに語った言葉を、そのままなでしこジャパンに贈りたい。

「もちろん金や銀は美しい。しかし銅メダルだっていい色だぞ」

 そして釜本らを擁する日本チームは地元メキシコとの激戦に勝利した。その試合で文字通り体力を使いきった選手たちは、宿舎に戻ってくるやベッドにばたんと倒れて泥のように眠り続けたのだという。

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準決勝後のピッチ上を走り回るアメリカ選手の子供


河崎三行コラム『五輪の花へ!なでしこジャパン』

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河崎 三行(かわさき・さんぎょう)

 1965年(昭40)8月13日、高松市生まれ。港湾労働者、建設作業員、スポーツ新聞社勤務等を経てフリーランスライターに。時に自動車産業、ミシュランガイド東京版、チェ・ゲバラ、環境問題などについての記事を執筆することもあるが、主な取材対象はサッカーをはじめとするスポーツ。近年は日本の女子サッカーとオーストラリアのサッカーを継続的に追いかけている。著書に『チュックダン!』(双葉社)。




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