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「女子サッカーの未来」を見せた3位決定戦

2008年8月22日

<北京五輪・サッカー:ドイツ2-0日本>◇21日◇女子3位決定戦

 3位決定戦のあとで行われた、アメリカ-ブラジルの決勝戦。FIFA世界ランク1位国と、世界で最も華麗なサッカーをすると言われる『王国』との対戦である。誰もが好ゲームを期待しただろう。

 しかし終わってみて決勝にふさわしい試合だったかと問われれば、もごもごと煮え切らない返事をするしかない。トーナメントのファイナルは勝つことが最優先されて試合運びが慎重になり、競技そのものの面白みにかけることが多いのだが、そうした意味合いともまた違う。

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決勝戦の試合前、お互いにフェイスペイント
をするブラジルファンの女性

 ブラジルのプレースタイルがあまりに古いため、ゲームに『女子サッカーの今』を感じることができなかったのだ。

 確かにブラジルのエースであるマルタは、見る者を楽しませるという意味では間違いなく世界最高の選手だ。2人ぐらいなら相手が米国選手であろうと軽くかわせるボールタッチだけでなく、敵の後ろからスタートしても一気に加速して先にボールに追いつく爆発的なスピードも兼ね備えている。

 だが決勝でのブラジルは、あまりにマルタ頼みに過ぎた。彼女のドリブルからでないと決定的なチャンスが生まれないのだ。まれに彼女以外の選手が得点に結びつきそうな状況でボールを持っても、これまたやみくもにドリブルで切り込むばかり。個々のテクニックや身体能力が優れていても、それが効率よくゴールを挙げるためのプロセスに結びついていないのだ。昨年の女子W杯で見せた融通無碍(むげ)のパス回しが、なぜか北京五輪の決勝ではかなぐり捨てられていた。

 セットプレーにも工夫がない。例えばコーナーキック1つにしても、緩やかな弧を描くボールをファーサイドに送るばかり。フリーキックでのトリックプレーなど、ついぞ見せなかった。それはさながら、20年程前の男子アフリカ諸国のサッカーを見ているようだった。

 個人の局面打開に頼ってばかりの攻めなら、打つ手はある。米国はブラジル選手がボールを持つと複数の選手で囲みにかかる。たまにマルタにまとめてぶち抜かれても、それでもあきらめず次の選手が迫り、抜かれた選手も必死に追いすがる。そんな地道な努力でボールを奪い、一気に前線のフリーな選手に預けてカウンターを狙う。

 個々人がばらばらにゴールを目指したブラジルに対し、為すべきことが統一できていた米国が注文通り耐え忍ぶ試合運びをして勝った、そんな決勝戦だった。

 が、その内容に『今』はなかった。マルタのワンマンチームのようだったブラジル。そのブラジルを組織で凌駕することができず、カウンター1発に望みをかけた米国。金や銀を獲得した両チームにケチをつけるつもりは毛頭ないが、07年女子W杯決勝、ドイツ-ブラジル戦ほどのスペクタクルを感じさせるものではなかった。

 米国の監督が準決勝後に口にした「女子サッカーの未来」。それは間違いなく、日本とドイツの間で争われた3位決定戦の方にあったと思う。

 どちらの選手も、基本技術は十分以上のものを持っている。その上で速さと強さを生かして、ダイナミックな展開で崩してくるドイツ。複数の選手がイマジネーションを共有し、テンポの早い局面打開をする日本。どちらもが持ち味を発揮し、女子サッカーの今、そして未来を示した好試合だった。

 0-2のスコアは妥当なものだろう。巡ってきたチャンスを、コソボ生まれのドイツ人バイラマイは2度とも決めた。このわずかだが大きな決定力の差が、勝敗を分けた。

 が、日本はやるべきことをやった。原を今大会初めて先発させ、中盤右サイドにしっかりした起点を作ろうとした佐々木監督の狙いは当たったし、選手交代やその時間帯に込められたメッセージも明確に伝わった。

 選手も持てる力を発揮した。アメリカ戦同様、ショートパスで試合を支配する時間帯をつくれた。あるいは雨や濡れたピッチを計算に入れて、ミドルシュートを積極的に打っていく判断も見事だった(これまではGKに届く前にお辞儀するような弾道のものがほとんどだったのだが、一番疲れているはずの3位決定戦で鋭いシュートが多かったのだから不思議なものだ)。流れの中からはもちろん、練りに練ったコーナーキックやフリーキックのオプションであと一歩のところまでゴールに迫った。複数で囲い込んでボールを奪い、ゴール前のピンチでは誰もが体を投げ出して敵のシュートを跳ね返す-。

 体格的にも体力的にも恵まれていない選手が、いかに欧米強豪国と戦っていくかの答え。他のどこの国にも似ていない、日本独自のスタイルのサッカーを思う存分表現した上での敗戦である。悔しくはあるが、誰にも恥じることのない結果だ。

 惜しむらくは今大会で多く見られたパターンである、DFが中へ絞った逆サイドへクロスを通されての失点を招いてしまったことだ。ただこれは、どんな国のどのDF陣でもゴールを割られやすいシチュエーション。日本のサイドバックは守備が本職の選手がほとんどいないから、どうしても最後の最後でマーキングや目配りに綻びが出る。今後のために貴重な勉強をさせてもらったと考えればいい。

 日本女子サッカー史上初の、世界大会4位。中国にいるから実感できないのが歯がゆいが、北京五輪でのなでしこの躍進は日本の各メディアでも大きく取り上げられたというではないか。なでしこジャパンやなでしこリーグ各チームのプレー環境の改善、女子サッカー人口の増加などに与える影響は計り知れない。

 彼女たちは、自ら背負った使命にきっちり落とし前をつけた。女子ソフトボールの金メダル獲得と同じ日で話題の主役を取られたのはちょっぴり不運だったが、それはなでしこジャパンが成し遂げたことの価値とは全く関係のないことだ。

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3位決定戦終了の笛を聞いた瞬間、ピッチに仰向けに
倒れこんでしばらく起き上がれなかった宮間

河崎三行コラム『五輪の花へ!なでしこジャパン』

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河崎 三行(かわさき・さんぎょう)

 1965年(昭40)8月13日、高松市生まれ。港湾労働者、建設作業員、スポーツ新聞社勤務等を経てフリーランスライターに。時に自動車産業、ミシュランガイド東京版、チェ・ゲバラ、環境問題などについての記事を執筆することもあるが、主な取材対象はサッカーをはじめとするスポーツ。近年は日本の女子サッカーとオーストラリアのサッカーを継続的に追いかけている。著書に『チュックダン!』(双葉社)。




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