金王手だ上野熱投318球/ソフトボール

- 勝利後、ブルペンから出てきた上野(右)は斎藤監督らの出迎えに感極まる
<北京五輪・ソフトボール:日本4-3豪州>◇20日◇3位決定戦
世界最速、最強のエースが奇跡を呼んだ。右腕・上野由岐子(26=ルネサス高崎)が、決勝進出をかけた3位決定戦でタイブレーク方式の延長12回、171球を投げ抜き4-3のサヨナラ勝ちを支えた。1-4で敗れはしたが、準決勝の米国戦も延長9回147球を投げ抜いており、1日で計21イニング、318球を投げる鉄腕ぶりだ。ロンドン五輪で正式競技から外れるソフトボール。鉄腕に導かれ、日本は21日の決勝・米国戦で「最初で最後の金メダル」を狙う。
サヨナラ勝ちが決まると、三塁側ブルペンから恥ずかしげに笑って、上野は歓喜の輪に加わった。「こんなに点を取られても取り返してくれたみんなに感謝したい。連投? 監督の指示です。なんとかしたい気持ちがあった」。ホッとした表情を浮かべた。
いつ終わるとも知れぬ戦いを投げ抜いた。決勝進出をかけたオーストラリア戦。「思っていたより最後までボールがいっていた」と話したが、既に米国戦で9回、147球を投げていた。疲れがないわけがない。1回表2死から3番ポーターに中前打、4番ルイスに三塁打を浴びて先制点を許した。3回も制球が乱れ、2番ワイボーンの頭部に死球。動揺したのか、その後自らの失策で傷口を広げた。失点こそ防いだが、珍しく不安定になった。
「魔の1球」もあった。4回に広瀬が逆転2ラン。1点リード、7回表2死走者なし。勝利まであと1人の場面で、ワイボーンに悪夢の同点弾を浴びた。「ドロップが外れて(ストライクを)入れようと思ったところを持って行かれた」。タイブレーク方式の延長戦はピンチの連続。11回には勝ち越し点を奪われ、12回には1死二、三塁のピンチ…。それでも、しのいだ。300球を超えても、球速109キロをマークした。日本が世界に誇る大エースは、強かった。
とてつもない重圧の中、21回、318球、試合時間は計6時間-。上野も「1日で延長2試合は記憶にない」という。米国戦後、斎藤監督に連投指令を受けた。選手村との往復時間を除けば、休息はわずか2時間ほど。マッサージを終え、差し入れのおにぎり、ちらし寿司を口にすると、もうバスの出発時間になっていた。
「五輪で金メダル」という悲願成就の舞台は整った。斎藤監督は言う。「ここまで来たら『上野と心中』という気持ちだった。明日? 可能性はある。それだけの体力もある。コンディションも上がってきている」と絶大な信頼は揺るがない。上野もその気だ。「米国に勝って金メダルを取るためにやってきた」。4年前、アテネ五輪では米国と決勝で当たる前に負けた。2年前の世界選手権は、4連投目の決勝でKOされた。そしてこの日の準決勝…。打倒米国と金メダルへの執念は、まだエースの右腕に宿っている。
上野が言った。「まだ終わりじゃない。決勝もいくつもりでいる。この緊張感を味わえるのは今しかない。この場に立てる喜びをしっかり表現したい」。五輪からソフトボールの名が消える大会で最後に金メダルを首に掲げ、表彰台のてっぺんに立つ。【菅家大輔】
[2008年8月21日9時19分 紙面から]
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